女性大統領誕生も、容易でない男女平等の実現-“マッチョ”の国メキシコ

山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・メキシコで、同国初の女性大統領の誕生が決まった。

・同国では、女性の社会進出の制度設計が進むも、女性の地位向上には課題。

・シェインバウム氏は「フェミサイド」取り締まり部署創設を公約に掲げるが、実現を疑問視する声も。

メキシコで先に行われた大統領選の結果、同国初の女性大統領が誕生することが決まったが、‟マッチョ”のお国柄だけに女性の地位向上や女性の権利拡大がこれで一気に進むとはいかないようだ。

■ ‟ガラスの天井”を破った女性に注目

6月初め行われたメキシコ大統領選は現職のロペスオブラドール大統領の与党候補の前メキシコ市長、クラウディア・シェインバウム氏が、野党連合の統一候補で同じく女性のソチル・ガルベス前上院議員を大差で引き離し当選した。

シェインバウム氏は‟ガラスの天井”を破った女性として、今や内外のマスコミの注目の的。10月1日の大統領就任までまだ時間があるが、注目度は増す一方だ。シェインバウム氏の最大の勝因は、社会福祉の拡充などで支持率の高いロペスオブラドール現大統領の「後継者」としてその人気に後押しされたことだといわれるが、現地の政治アナリストは、女性候補という斬新さが多くの有権者を引き付けたことも勝利につながったと指摘する。さらに各国の人権団体や女性団体の間ではメキシコで女性大統領が登場することを高く評価するだけでなく、今回の同国大統領選が二人の女性政治家によって戦われた点を重要視し、女性の政治参画拡大の典型例として賞賛する意見が多いようだ。

■ 女性の政治進出では‟先進国”のメキシコ

それにしても、男性優位の価値観や慣習が重視される傾向が強い‟マッチョ”の国メキシコで今回、なぜ女性大統領が登場するようになったのだろうか。メキシコで女性の政治参画が認められるようになったのは日本よりも後の1953年から。しかし、メキシコでは女性の政治参画を促進するためさまざまな仕組みや工夫が比較的短期間に進められてきた。

米国の中南米問題専門シンクタンクの専門家によれば、1996年に候補者の30%を女性とすることを政党に推奨するクオータ制が導入され、2002年にこれが義務化された上、2014年には政党に対し候補者を男女同数とするよう義務づける制度が確立したという。メキシコは2024年4月時点で国会議員の約半数は女性が占めており、この分野では世界第4位というデータもある。

現在、連邦議会の上院、下院ともに議長は女性である。また2014年、「政治参画監視機構」が設置されており、中央政界だけでなく地方レベルでも女性の政治参画を推進するシステムができている。前述の専門家は「女性の政治参画という面ではメキシコは先進国だ」と指摘する。

独自の女性政策貫けるか-シェインバウム氏

だが、女性の政治進出が必ずしも一般社会での男女平等や女性の地位向上にはつながっていない面があるのも、メキシコだ。国連人権理事会のある専門家は「女性に対する暴力に関してはメキシコは中南米で最悪の国の一つ」と指摘する。同専門家によれば、メキシコでは女性であることを理由にした殺人、いわゆる「フェミサイド」事件が相変わらず頻発しているという。毎日、10人の女性が夫あるいは家族のメンバーによって殺害されているとの報道もある。

メキシコの国勢調査を行う「国立統計地理情報院」(INEGI)が以前公表したところによれば、同国女性の70%が肉体的、心理的、性的暴力を体験しているとされる。こうした背景としてメキシコは男性優位の価値観や文化が根強く、一般社会や家内でジェンダー平等や女性の権利がないがしろにされていることを指摘する専門家も多い。

シェインバウム氏はLGBTの権利擁護とともに「フェミサイド」を専門に取り締まる部署を創設することも公約に掲げている。ただ、同氏が師と仰ぐロペスオブラドール大統領については「フェミサイド」を軽視しているとの声が専ら。シェインバウム氏が現大統領の路線を忠実に引き継ぐと公言していることもあり、女性問題で本当に独自の考えや政策を貫けるのか、疑問視する声も聞かれる。

(了)

トップ写真:インターコンチネンタルホテルでクラウディア・シェインバウム次期大統領がインターコンチネンタルホテルを見学する様子(メキシコシティ 2024年6月19日)出典:Photo by Mónica Loza/ObturadorMX/Getty Images

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