“完全食”は本当に必要な栄養が手軽においしく摂れるのか…「完全メシ」や「ベースフード」で話題(スギアカツキ)

完全メシの一部商品(筆者撮影)

少し前に、完全食生活を6年間続けているという30代男性の話がネットの記事になり、話題になったのを覚えている人も少なくないと思います。食事はドリンクタイプの完全食とプロテインをまぜたものを1日2回摂取するだけで1日に必要な栄養がとれるという内容で、食べることが生きがいの人にとっては信じられないような話でした。ただ、ここ最近、「完全栄養食(完全食)」というワードを巷でよく見かけるようになっているのも事実です。

完全食に明確な定義はありませんが、厚労省「日本人の食事摂取基準」にもとづき、1食あたりに必要な栄養素を1つの食品で摂取することができる製品を指すことが多いようです。

今ではコンビニやスーパー、ドラッグストアなどでインスタント食品からドリンク、お菓子などさまざまなタイプの商品が発売されていますが、中でもCMでおなじみの日清食品の「完全メシ」シリーズは、2022年5月の発売から累計2600万食を突破。23年度は50億円を売り上げているトップランナー的存在です。

必要な栄養素が手軽にバランスよく摂取できることから、忙しい毎日を送る人たちの中には、まだ試したことがないけど気になるという人も少なくないのではないでしょうか。

今回、日清食品で完全メシを担当する戸嶋健介さんから伺った商品の詳細のほかに、完全メシを実食しながら、その実態に迫っていきたいと思います。

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完全メシは、現代が抱える食の課題を解決したいという思いから生まれた、同社の安藤徳隆社長肝いりの新規事業だそうです。

前出の厚労省「日本人の食事摂取基準」で設定された33種類の栄養素とおいしさのバランスを追求しているのが完全メシの特徴です。「インスタント食品はおいしいけど、少し罪悪感がある」というイメージを覆す、おいしさや簡便さのほか、健康ニーズを満たせる画期的商品と言えるでしょう。ちなみに、完全メシは完全栄養食ではなく、「最適化栄養食」という看板を掲げています。

物足りなさや味のイマイチさがない

そこで未体験の筆者が、完全メシの中から、冷凍食品の「かつ丼」にトライしてみました。まず驚いたのが、健康志向のメニューにありがちな物足りなさ、味や食感のイマイチさが全くない点です。普段食べている食品と同じように、おいしく味わうことができました。

一般的に1食あたり900キロカロリーはオーバーし、ガッツリ感のあるかつ丼を、どうすればおいしさや満足感を損なわずに、およそ560キロカロリーの栄養バランスが整ったメニューに変身させられるのでしょうか。答えの一つは、油で揚げない特殊製法にあるといいます。

通常の製法で調理されたとんかつを使用すると、脂質が多くなりすぎます。だからといって脂質を大幅に減らすと、とんかつらしさが損なわれます。そこで、油で揚げない特殊な製法をゼロから開発。実際に食べてみると、油で揚げたようなジューシーさ。1食あたりたんぱく質24.3グラム、食物繊維7.9グラムが含まれているほか、食塩相当量2.8グラムに抑えられています。

■たまになら家族の食卓に取り入れてもいい

一般的な食事よりも栄養バランスが整っている点をふまえれば、お子さんにもお勧めできるとのことなので、忙しい毎日で家族の食事に取り入れてもいいと思った次第です。

完全メシには、「カップヌードル」や「カレーメシ」などの製品のノウハウ、技術が詰め込まれています。例えば、完全メシシリーズの常温食品で人気ベスト3に入る「完全メシ 日清焼そば U.F.O. 濃い濃い汁なし担々麺」は、「日清ラ王」などに使われている製造技術を応用。麺の中心層の一部に、小麦粉の代わりに食物繊維やたんぱく質を使用する3層麺製法技術で栄養素を配合しています。

また丼ものやご飯ものに使われている米は、お湯をかけて5分で戻るオリジナル製法を採用。米と栄養素を一緒に炊き込むことで、米本来のおいしさはそのままに栄養素の配合を可能に。その他、世界中から約170種類の塩を集めて研究を重ね、ミネラルやアミノ酸などを配合する独自技術で、塩分が少なくても"普段の食事と変わらないおいしさ"を実現していると言います。

ジャンクな感じがしない

ここで、日清食品の完全メシのほかに完全食商品としてよく知られているベースフードについても触れたいと思います。完全メシ同様、さまざまなところでよく見かけるのが「BASE FOOD(以下ベースフード)」で、パンやクッキーといった商品のほかに、最近では総菜パンやパンケーキミックスも登場しています。

ベースフードの特徴は、全粒粉や大豆、チアシードなど自然由来の厳選した10種類以上の原材料を主に使用している点があげられます。購買層は、単身者のビジネスパーソンのほかに、多忙でも健康志向が高い共働き家庭が多いと言います。

ベースフードの総菜パンを実際に食べてみると、完全メシが持つジャンクな感じはなく、健康系のややヘルシーなパンを食べている感覚がします。どちらかと言えば、プロテインバーに近いかもしれません。

厳選された自然素材が使われているという点が、食べ続けるモチベーションにつながっているように感じられます。食事の時間がとれないビジネスマンにピッタリで、ランチをベースフードのパンと野菜ジュースにすれば、500円程度で済みます。いかにも令和の若者が好みそうなミニマムさと言えそうです。

ちなみに私が実食した「ベースブレッド ツナ」(税込327円)は、たんぱく質13.5グラム、食物繊維3.2グラム、鉄1.5ミリグラム、カルシウム113ミリグラムが含まれています。

栄養面を考えれば、こうした完全食だけで必要な栄養がバランスよく摂取できますが、食の役割は栄養だけではありません。食事は人との大事なコミュニケーションの場であったり、そのときの気分によって食事からはさまざまな影響を受けるものです。もちろん、栄養を摂るという1点に集中したい人もいると思うので、食事にまつわる面倒を一切排除したいと考える人がいても全くおかしくありません。

いずれにしても、日清食品もベースフードも「毎日毎食食べましょう」とアナウンスしていませんから、完全食との付き合い方は個々の生活や好みに応じてということになるでしょう。みなさんなら、完全食とどのような付き合い方をしたいですか?

▽スギアカツキ 食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。https://twitter.com/akatsukinohana

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