「俺がお前の父親だって忘れるな」“挑発”し合うヤマルとN・ウィリアムス。スペイン両翼の知られざる関係【現地発コラム】

「俺がお前の父親だってことを忘れるなよ」

ニコ・ウィリアムスはこのEURO期間中にラミネ・ヤマルに対し、事あるごとにこう念を押している。冗談とも本気ともつかないこの言葉に対し、「違うよ、君の父親は僕さ」とヤマルは言い返す。ピッチ上でお互いを求め合う2人は、ピッチ外では“挑発”し合っている。

スペインサッカー連盟(REEF)の関係者によると、この両者の関係は、2人が初めてラス・ロサス練習場で一緒になった3月に始まったという。

コロンビア代表とブラジル代表との2つの国際親善試合先立ち、ラス・ロサス練習場で合宿が行われていた時だった。ニコは、ヤマルとパウ・クバルシの世話役を買って出た。オフの日、ニコの携帯が鳴った。「パウは試験があるから勉強しているけど、ラミネは何かやりたいことがあるみたいだから、どこかに連れて行ってあげて」

ニコは二つ返事で引き受けた。関係者はこう語る。「ニコは良いお手本だ。ラミネはニコのやることをすべて真似している」

ニコの日課は起きて、身支度をした後、ヤマルの部屋に行くことだ。ドアをノックし、「さあ、遅れるわけにはいかない」とせかせる。ニコは、何らかの集まりがあるたびに、この行動を繰り返す。こうしてラミネに集団行動のイロハを教えている。すべて兄のイニャキから伝授されたことだ。

【PHOTO】EUROで躍動する名手たちの妻、恋人、パートナーら“WAGs”を一挙紹介!
ニコはイニャキについて「僕のお手本だ。すべてと言っていい。兄は両親と僕を助けてくれた。彼のおかげで家族は食べることができ、僕は学校に行き、服を着ることができた」と感謝の気持ちを口にする。8歳年上のイニャキは、間に合わせのサンドイッチを持って学校に迎えに行くことから、プロのアスリートとしての振る舞い方まで、常にお目付け役としてニコを見守ってきた。

「そのスニーカーはどこで買ったんだい?ダサいぞ。その頭のスパゲッティはいつになったら取るんだい?趣味が悪すぎる」といった具合にいつも冗談は絶えなかったが、必要であれば強く言って聞かせることもあったという。「何度も叱らなければならなかった。両親は仕事であまり家にいられなかったから、僕がニコの面倒を見なければならなかった。厳しかったと思うよ。でもそのおかげで弟は精神的に成熟し、頭で考えて行動できるようになった」とイニャキはニコとの関係を語る。

その教えが今度は、ヤマルに向けられているわけだ。イニャキの弟はヤマルの兄になった。

ニコは自身が保護者としてヤマルの父親役をしていると理解している。一方のヤマルは、自分がニコよりもすべてにおいて優れているため父親だと思っている。ニコにとっての父親は古典的な意味合いであり、ヤマルにとっての父親は、砕けたニュアンスの若者言葉の一つだ。

父から父へ――。ニコとラミネはドレッシングルームでの笑いを巻き起こし、ピッチ上では攻撃を牽引する。そしてラ・ロハはそれに感謝している。

文●:ファン・I・イリゴジェン(エル・パイス紙スペイン代表番)
翻訳●下村正幸

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙のコラム・記事・インタビューを翻訳配信しています。

© 日本スポーツ企画出版社