【プロの観戦眼33】ショット自体よりも、ボールに対して切り込んでいくシナーのフットワークに注目!~佐藤文平<SMASH>

このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のこのショット」がすごいという着眼点を教えてもらう。試合観戦をより楽しむためのヒントにしてほしい。

第33回は、スポーツバイオニクスの博士号を持ち、TV中継の解説も務める佐藤文平プロに話を聞いた。佐藤プロが推すのは、今年の全豪オープンで四大大会初優勝を飾り、現在世界ランク1位に君臨するヤニック・シナーだ。

並外れた攻撃力を持つシナーだが、佐藤氏はショットそのものではなく、それを支えるフットワークに注目してほしいと語る。「常に細かく足を使い、ボールに向かっていくフットワークなんです」というのがその理由。

「シナーはボールに対して必ず切り込んでいきます。試合中は主に横の動きが多いため、一般的な選手はボールを迎えに行かず、待って打つことになりがちです。でもシナーは前や斜め前に入って、前体重で押し込んでいくから、相手にとって圧力になるんです。トッププロでは、ダビド・ゴファンなどもそういうタイプですね」

例えて言うと“扇”のような動きだ。扇の要の位置から、真横ではなく前や斜めに移動して、コートの中に入って打つ。ボールに対して最短距離で詰めることになるから、タイミングを早くできるし、ステップインして体重を乗せることもできるわけだ。
「シナーが後ろ体重で打つことは滅多にありません。前後のポジション調整を細かく、かつナチュラルに対応できるのが彼の強みだと思います」と佐藤氏。だから「1球の質が高く、1球で相手を押せる」のだという。

シナーのプレーを見ていると、フォーム自体はさほど力感を感じないが、打球は非常にスピーディーで伸びがある。それは腕力よりもボールへの入り方や体重の乗せ方に起因するということだろう。

「サービスリターンでも、余裕があったらシナーは待って打たずに、細かいフットワークで前に入って叩きます。ストローク、リターンを問わず、相手は対応する時間がないと感じていることでしょう」

今度シナーの試合を見る機会があったら、ボールよりもフットワークに着目してほしい。動きの素早さ、ポジショニングの的確さを実感できるはずだ。

◆Jannik Sinner/ヤニック・シナー(イタリア)
2001年8月16日生まれ。188cm、76kg、右利き、両手BH。少年期はスキー選手としても有望で、13歳からテニスに専念。18年にプロ転向し、翌年には18歳でネクストジェンに優勝。23年にカナダ・マスターズを制覇、今年は全豪OP、マイアミOPとビッグタイトルを獲得し、ついに世界ランク1位に! ツアー通算14勝。

取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)
※『スマッシュ』2024年4月号より再編集

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