エアコンなし? でも史上最高にエコな五輪、パリ選手村を見学

パリ郊外サンドニに作られた選手村の通り/Nathan Laine/Bloomberg/Getty Images

フランス・サンドニ(CNN) 100年前にパリで夏季オリンピックが開催されたとき、選手たちを同じ屋根の下に集めたがっていた主催者は、史上初の選手村を建設した。

家具が備え付けられた木造の小屋からなる選手村は質素で、閉幕後すぐに取り壊された。

1世紀を経て、オリンピックが再びパリで開催される今回、フランス当局はまったく異なる対応をしている。今回の大会を「史上最も責任ある持続可能な大会」にするための取り組みの一環として、長く存続するものを建設しているのだ。

パリオリンピック委員会の持続可能性担当ディレクター、ジョルジナ・グレノン氏は「この選手村は一つの地区として考案された。(大会)以降も生き続ける地区だ」「パリ2024は数カ月間ここを借りる」

今夏の選手村のアスリートたちは、自分たちのために特別に作られた共同住宅で生活するのではなく、誰かの自宅や職場となる場所で暮らすことになる。

9月8日のパラリンピック閉幕後、82棟の建物からなる選手村は、6000人が働くオフィススペースと、さらに6000人が暮らす住宅に改装される。

パリでは金利の上昇や不動産価格の高騰、供給不足により住宅の購入・賃貸がこれまでになく難しくなっている。このプロジェクトはこうした住宅危機を緩和するモデルになることを期待されている。手頃な価格の住宅に対する需要は非常に高い。パリの新興地区である10区にある10平方メートルの小さなアパートが昨年、月額610ユーロ(約10万4000円)で賃貸に出された際には1週間足らずで765人もの希望者が殺到した。

選手村の場所はパリの中でも歴史的に貧しい北部郊外の一部を活性化させることを期待して選ばれた。敷地は三つの地区が接するところに位置している。長い間犯罪や治安の悪さで知られてきた多様な労働者階級の地区であるサンドニ、急速に高級化が進むサントゥアン、そしてセーヌ川に浮かぶリルサンドニだ。主催者によると、オリンピック閉幕後はサンドニとサントゥアンの大会用に建設された新築住宅の32%、リルサンドニの同48%が公営住宅として確保される。

ただし、既存の住民が住宅価格の高騰で住めなくなるリスクがある。2012年のオリンピック前には、ロンドン東部に手頃な価格の住宅を建設するという同様の約束がなされたが、その約束はほとんど果たされなかった。22年の英BBC放送の報道によると、オリンピックパーク内に建設された9000戸のうち、最安値の家賃水準で提供された住戸は200戸にも満たなかった。

「巨大な実験室だ」

主催者が100%再生可能エネルギーで運営するとうたう大会と同様に、選手村のためのあらゆるものは持続可能性を考慮して建設された。建設する対象を最小限に抑えるために、主催者は敷地内にあるいくつかの既存の建物を一時的または恒久的に改修した。その中には「居住者センター」に作り替えられた古い電気工場も含まれている。選手のトレーニング施設は過去の大会のように新たに建設するのではなく、地区内にある既存の映画スタジオを借りて使用する。

グレノン氏によると、建設された建物には木材とリサイクル素材が使用され、大会プロジェクトの温室効果ガスの排出量(カーボンフットプリント)を1平方メートルあたり30%削減する工程が採用された。これはフランスの環境規制で求められている削減量を上回る。

グレノン氏は、すべての屋上の3分の1にはソーラーパネルが備え付けられ、残りの3分の1には室内の温度を下げるための庭があると説明する。建物の間にはセーヌ川に通じる長い、まっすぐな通路が設けられ、川の近くの新鮮な空気をできるだけ奥まで運ぶ風の通り道になっている。フランス国立気象局によると、今夏の気温は例年より高くなると予想されており、暑さが選手の安全を脅かす可能性があるとの懸念が広がっている。

リサイクルされるのは建物だけではない。

選手村には約3000戸の住宅があり、東京オリンピックで使用されたものと同じリサイクル可能な素材で作られたベッドが合計1万4250台設置される。マットレスは再利用された素材で作られ、裏返すことで硬さを調整できる。椅子は段ボール製で、大会後、簡単にリサイクルできる。

主催者は選手村全体でいくつかの実験を行っている。その目的は、新しいグリーンテクノロジーや建設方法が現実世界で実行可能かどうかを検証することだ。

グレノン氏は「巨大な実験室だ」と話す。

一つの歩道は貝殻で作られている。理論的にはこれらの貝殻は雨を吸収するとされる。暑い日には蓄えられた水分が蒸発することで通行人は涼しさを感じられる。

選手村のメインストリートには実験的な屋外空気清浄機が5台設置されている。未確認飛行物体(UFO)のような巨大な空気清浄機の塔は、掃除機のように設計されており、汚染された空気を吸い込み、危険な粒子を除去する。製作したジェローム・ジャコモニ氏はCNNに、この装置は「あらゆる大きさの粒子状物質の95%」を浄化できると語った。5台の装置は1時間当たりオリンピック競泳用プール40個分の大気をごくわずかな電力で浄化できるという。

涼を保つ

最も関心が向けられるイノベーションは地熱冷却システムだろう。パリ大会の選手たちは、3年前の東京オリンピックと同じレベルの炎暑と湿度に見舞われる可能性があるからだ。

世界陸連のコー会長は、18日に発表された報告書の中で「気候変動はより一層、スポーツの存続に関わる脅威とみなされるべきだ」と述べた。同報告書は今夏の大会に関連する高温によるリスクを検証している。

選手村の一部の建物の1階には従来のエアコンが設置されているが、これは大会後に店舗に改装されるためだ。選手用の住居ではエアコンではなく地熱冷却システムが使用される。

このシステムは、近くの地熱発電所の地下70メートルの井戸から4度の冷水を各住戸の床下を通るパイプに送る。パリ2024オリンピック・パラリンピック選手村ディレクターのローラン・ミショー氏によると、冷水は外気温に比べて建物を6~10度冷やすことができる。このシステムは建物レベルで制御されるが、各住戸には自動温度調節器があり、室温を上下2度の範囲で調節できる。このシステムは冬に住居を暖めることもできる。

人為的な気候危機により熱波の頻度と激しさは増しており、世界の多くの地域でその到来が早まっている。パリは特に影響を受けやすい。850以上の都市を調査した研究によると、パリ市民は欧州のどの都市よりも極暑で死亡する可能性が高い。

国際エネルギー機関(IEA)の最新のデータによると、22年時点で欧州の全世帯のうちエアコンを保有している世帯はわずか19%にすぎない。世界中で発生する酷暑はエアコンの世界的な需要を高め、気候のジレンマを生み出している。エアコンは大量のエネルギーを使用するが、その大部分は依然として二酸化炭素を排出し地球の温暖化を引き起こす化石燃料から作られている。

熱波に見舞われているときの地熱冷却システムの有効性を懸念する代表団には、選手村が個別にエアコンを貸与する。

パリのイダルゴ市長は3月、ロイター通信から選手村にエアコンがないことについて質問された際、「非常に高い気温でもエアコンが必要にならないように設計されている」と述べた。

同市長は「私たちは崖っぷちにいる。アスリートを含め、誰もがこのことを認識しなければならない」「エアコンなしでも過ごせる理にかなった方法による建物の建設を支援してくれる科学者を私たちは信頼する必要がある」と訴えた。

© 朝日インタラクティブ株式会社