高橋一生、『ブラック・ジャック』続編への希望は? 岸辺露伴との“着こなし”の差を語る

手塚治虫の名作『ブラック・ジャック』が24年ぶりにドラマ化。さらに、主演が『岸辺露伴は動かない』シリーズ(NHK総合)で、実写化は難しいと思われた露伴を見事に演じ上げた高橋一生とくれば、期待せざるを得ない。

露伴とブラック・ジャック、2人の“先生”を演じることになった高橋に、原作の要素を実写に落とし込む際に気をつけたポイントや、シリーズ化に向けた展望を聞いた。(編集部)

2人目の“先生”を演じる喜びと葛藤

――ブラック・ジャック役が決まったときの感想は?

高橋一生(以下、高橋):リリースコメントにも出させていただきましたが、僕には“岸辺露伴先生”という大切な漫画家の先生がいるんです。今回“別の先生”と言われて、『ブラック・ジャック』もとても好きな漫画だったのでとても嬉しかったのですが、同じ自分の肉体なので、どうしても「岸辺露伴だ」と思われてしまうかもしれない、という思いがありました。正直、「嬉しい」と「どうしたものか」という気持ちが同時に来ていたような気はします。

――人気キャラクターを演じることの怖さはないですか?

高橋:それはないです。ただ、職業は違っても同じ先生同士なので、そこをどう自分の中で区分けできるだろうか、という感覚はあったかもしれません。

――最初に、高橋さんが漫画『ブラック・ジャック』に触れたのはいつ頃ですか?

高橋:小学3、4年生頃だったと思います。

――そのときに受けた印象は?

高橋:ブラック・ジャックがとても怖かったような記憶はあります。多くの人たちが言う正義のためにやっているのか、自分の正義のためにやっているのか、よくわからない。つぎはぎであることもそうですし、異形の存在としては映っていたと思います。なので、お芝居をするときにもそういうイメージを持って演じていました。冒頭で子どもを助けるシーンがあったのですが、その子役さんが泣いてしまって。すごく怖かったみたいで、「ごめんなさい」と思いながらも、自分が子どもの頃に抱いていた人物像が表現できているのかもしれないと感じました。

――今回のドラマでは、現代のブラック・ジャックを描いているのでしょうか。

高橋:現代的な描写もありますが、僕としては、あまりその部分を強く出さずに普遍的な世界線で進行していくほうがいいのかなと思っていました。お話をいただいたときから、「原作に準拠したい」という思いがあったので、“変わらない何か”をしっかりと入れていかないとバランスが悪くなってしまうんじゃないか、という思いは持っていました。

――オファーを受けたときや演じる際に、高橋さんご自身から提案したことはありますか?

高橋:やはり「原作に準拠している形であってほしい」ということ。多くの『ブラック・ジャック』が好きな方々が感じているブラック・ジャック像のようなものを平均化して、自分の中に落とし込む。さらには自分が思っているブラック・ジャック像をどううまく混ぜられるかということは、芝居をしながらずっと考えていたところでした。

――実際にブラック・ジャックを演じられて、いかがでしたか?

高橋:不思議と手応えがないんです。僕はまだ完成した映像を観られていなくて(※取材時)、どんなふうに出来上がっているのか本当にわからないので、楽しみにしています。

――映像を観てみなければ、まったくわからないと。

高橋:僕はカットがかかった後に、モニターで自分の芝居を見るのが嫌なんです。恥ずかしいですし、自分の芝居に毎回「くそったれ」と思うので。スタッフの方がモニターを見せてくれようとするんですが、僕は(目を腕で隠しながら)「ああ~っ」と顔を伏せるので、どういうアングルで、どういうふうに撮られているのかも全然わからなくて(笑)。ただ、今回は「こういう見え方をした方がいい」と思うところは言うようにしました。冒頭のシーンでも、高橋一生ではなくB・J(ブラック・ジャック)がいかにカッコよく見えるかを考えて、「こっち側のほうがきっとカッコよく映ると思うんです」「こうしてみるのってアリですかね?」と。ふだんはあまり言わないことですが、今回はビジュアルなども相まって「どうしたらこの服の機能を生かせるか」「異形な感じをどう生かせるか」を考えていたので、そういうことを珍しく言わせていただきました。

ブラック・ジャックの“袖”に詰まったこだわり

――衣装は、『岸辺露伴は動かない』でも衣装デザインを担当されている柘植伊佐夫さんが手掛けています。

高橋:柘植さんが来てくださって心強かったです。否が応でも露伴と差をつけようとしてくださいますし、それは柘植さんのワークとしても絶対に譲れないところだと思うんですね。柘植さんがイメージされている露伴は、どちらかというとモードを自分の感覚で着崩していく感じでした。でも今回のB・Jは、原作に沿った形でアメトラといいますか、クラシックなものに落とし込んだほうがいいんじゃないか、という話を最初にしました。

――とくにこだわった部分はありますか?

高橋:手塚さんが漫画で描かれていた“袖”です。あの袖をどこまでデフォルメするか、柘植さんとずっと話し込んでいました。ご覧になるとわかると思いますが、B・Jのコートはストールのようになびくんです。でも実際の重さだと、よっぽどの強風が吹かなければなびかないので、「歩いただけであの感じを出すためには、どうすればいいんだろう」と。その結果、生まれたのが“ニセ袖”です。ちょうど肩の辺りから腕が通らない“ニセ袖”が出ていて、ストールとしても使えるようになっています。実際にはジャケットの腕がそのまま出てくる昔の外套スタイルなんですが、コートにも見えるし、肩に羽織っているようにも見える。柘植さんは衣装だけでなく人物造形も担当される方だけあって、着ていておかしくない、ただの飾りじゃない、という説得力のあるところまで落とし込んでくださるので、本当に助かりました。

――ブラック・ジャックの助手であるピノコ役は、子役の永尾柚乃さんが演じています。

高橋:ピノコはとても仲良くしてくれて、お芝居しやすかったです。僕と同じで妖怪が好きだったので、妖怪トークで盛り上がりました。僕が“袖の下”で妖怪の本を差し上げたりして、だいぶ機嫌よく過ごしてくださったんじゃないかなと思っています(笑)。

――(笑)。まだ手応えはないとのことですが、今後もブラック・ジャックを演じたいですか?

高橋:『岸辺露伴は動かない』のときもそうでしたが、僕は次があるかどうかはあまり考えないようにしているんです。関係者の皆さんから「やりたい」と言われたら「へえ」と応えますし、なんとなくそれには触れないなと思ったら、「ないんだな」と(笑)。そこに一喜一憂していたくないんです。そのときそのとき、お芝居はしっかりやっているつもりなので、手応えがなくても“やり切った”ということだけは確かに存在しています。

――常に今そのときの作品に向き合っているのですね。

高橋:もちろん「あったらいいな」という思いは、どの作品においてもあるんです。俳優は消費の対象ですが、その中で「寅さん」のようにずっと続けられるものがあると、ちょっと面白くなったりするんです。それがB・Jにもあってほしいなと思う反面、どうなるかはわからない。そんな気持ちで今、わりとフラットに捉えているかもしれません。
(文=nakamura omame)

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