なぜスーパー女子高生・久保凛は”憧れの存在”田中希実に先着でき、800m全体トップ通過をできたのか。「最初から考えていた」冷静沈着な得意戦術【陸上・日本選手権】

陸上界に”ニューヒロイン”誕生の予感がした。

6月29日、パリ五輪の代表選考会を兼ねた日本選手権(新潟市・デンカビッグスワンスタジアム)は3日目が行なわれ、女子800m予選は16歳の現役高校生・久保凛が全体トップとなる2分03秒60で先着し、30日の決勝に駒を進めた。

久保は最終3組に登場し、1500mと5000mの2種目でパリ五輪代表に内定している田中希実、東京五輪や22年の世界選手権オレゴン大会の代表である卜部蘭ら実力者が揃うなか、堂々とした快走でスタジアムを沸かせた。

スタートから勢い良く飛び出した久保は200m付近で2位以下を引き離し、序盤からトップに踊り出た。後方を走っていた田中がじりじりと迫り、トラック1周過ぎから久保の背後にピタリとつける。16歳に見えないプレッシャーを与えるが、久保はまったく動じずペースを崩さない。さらに卜部も残り100mで先頭争いに加わり、三つ巴のデットヒートの展開に観衆は大きな盛り上がりをみせた。

のちに、この場面について久保は「焦らず落ち着いて、リズム良くスピードを上げられた」と明かす。頭は冷静に、トップ選手の位置を電光掲示板でチラッと確認して先輩ランナーの猛追を振り切る。スーパー高校生は最後まで首位を譲らず、ラストの直線は突き放すかのようなスパートをかけて見事な逃げ切りを果たした。
初出場の日本選手権で衝撃デビューを飾った久保。レース後の囲みインタビューでは冒頭、「この舞台で自分は優勝を狙っているので」と真っ直ぐに記者たちの目を見て宣言した。さらに、「最初から自分のリズムで先頭を引っ張ってレースをしようと考えていた」とプラン通りだったことを明かした。「少し余裕を持って全体1番でゴールできて良かった。(決勝の)タイムは高校記録だったり、パリ五輪の参加標準記録を突破できるように頑張ります」と声を弾ませた。

最後まで先頭を争った田中は「憧れの存在」だという。「自分よりも速い選手たちと一緒に走らせていただける経験が、自分にとっていい経験になる」と目を光らせた久保。今季はGPシリーズで3連勝を飾り、静岡国際では高校歴代3位(2分03秒57)をマーク。さらに金栗記念では田中に先着するなど、急成長を遂げている。

「憧れの選手より早くゴールできたのは自信になりました。こういう試合を大切にしていきたい」

8年ぶり高校生優勝の可能性は大いに高まった。運命の大一番は30日の午後4時55分に号砲が鳴る。超新星の躍動を、ぜひこの目に焼き付けたい。

取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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