【ミリオンヒッツ1994】WANDS「世界が終るまでは…」は「スラムダンク」三井寿のテーマ?  「スラムダンク」のエンディングといえば、WANDS「世界が終るまでは…」

リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.14世界が終るまでは…/ WANDS作詞:上杉昇作曲:織田哲郎編曲:葉山たけし、Ebako Jr.発売:1994年6月8日売上枚数:122.1万枚

90年代の「ジャンプ」を支えた「スラムダンク」

“ジャンプ黄金期” とは、1980年代中盤から90年代半ばにかけて、発行部数や影響力が全盛を誇った時代のことである。その人気は凄まじく、毎週月曜の発売日になると書店には小中高生からサラリーマンまであらゆる年代の “男子” たちが我先に購入せんと押し寄せ、時間を忘れて読み耽ったものだ。

その結果、ピークの1995年には約653万部という前人未到、空前絶後の大記録を樹立した。そんな90年代の『ジャンプ』を支えたのは、なんといっても『ドラゴンボール』『スラムダンク』の2枚看板だ。

『スラムダンク』がアニメ化されたのは1993年10月のことだ。土曜19時30分。まだアニメが地上波ゴールデンタイムで頻繁に放送していた頃、野球のナイター中継を見たがる父親に頭を下げてチャンネルを譲ってもらい、平成キッズ達は『スラムダンク』に釘付けになった。

漫画特有の躍動感をみごとに表現したアニメ版は、本編だけではなく主題歌を聴くのも楽しみだった。同作品はいわゆるアニメソングではなく、オープニング、エンディング共にビーイング系のアーティストによるJ-POPとタイアップしていたのだ。その決定版ともいえる楽曲こそが、第25話「全国制覇をめざした男」からエンディングテーマとして使われるようになった、WANDS「世界が終るまでは…」である。

ⓒ東映アニメーション

トップ・オブ・トップの存在だったWANDS

先に当時のWANDS人気がどれほど凄まじかったかを振り返っておく。1991年12月にデビュー後、翌年10月に中山美穂とのコラボレートシングル「世界中の誰よりきっと」がダブルミリオンのメガヒットを記録。知名度が急上昇したことで、先にリリースしていた3枚目のシングル「もっと強く抱きしめたなら」が脚光を浴び、最終的には年を跨いでのミリオンヒットとなった。

さらに「時の扉」「愛を語るより口づけをかわそう」までシングル3作連続でミリオン達成という破竹の勢いをみせ、WANDSはたちまちトップアーティストの座に上り詰めたのだった。当時のヒットチャートを席巻したビーイング系アーティストの中でも、とりわけWANDSはトップ・オブ・トップの存在だった。

上杉昇が人知れず抱えていた苦悩と葛藤

しかし、ボーカルの上杉昇は当初から自身と事務所との方向性のズレに違和感を覚えていたと、後に複数のインタビューで告白している。本来ガンズ・アンド・ローゼズやLOUDNESSといった骨太のロックを好む上杉にとって、WANDSが歌っていた爽やかなポップソングは “やらされてる感がすごくありました” とまで語っているのだ。

超人気アーティストとして不動の地位を築きながら、人知れず抱えていた苦悩と葛藤は作品にも色濃く反映されている。たとえば「世界が終るまでは…」は一見ラブソングではあるものの、その内容は極めて物悲しく、退廃的だ。作詞した上杉自身いわく、「 “終る” というフレーズは、自分の中で『こういう商業音楽はこれ以降やらない』というメッセージ」が込められているという。そうした複雑な想いを背負った1曲なのだ。

上杉は後年、『スラムダンク』のタイアップという点については全く意識せずに作詞し、アニメも見たことがないと語っている。ちなみに同曲がエンディングテーマになった第25話は、バスケ部が練習する体育館に乗り込んできた三井寿と桜木花道たちの対立を描いた、いわゆる “三井襲撃事件” の真っ只中だった。

その後、物語は三井寿の活躍を描いた “翔陽戦” を迎えるわけだが、歌詞の内容や切なげな曲調と、三井のキャラクターがみごとに一致する。そのため私は長年、“この歌は三井寿をイメージして作った” のだと思い込んでいたほどだ。

ⓒ東映アニメーション

ポップソングとの決別を図ることになった「世界が終るまでは…」

『スラムダンク』人気も相まって、同曲はバンドとして最後のミリオン作品となった。この後WANDSは本来上杉が嗜好していたオルタナ路線へと舵を切り、ポップソングとの決別を図ることになる。しかし、その後も「世界が終るまでは…」は幅広い年代に歌い継がれ、『スラムダンク』の世界的な人気と共に “ジャパニーズ・アニソン” の代表格として、今や世代、国境を超えたスタンダードナンバーとなっている。

現在、WANDSは当時のメンバーである柴崎浩(ギター)、木村真也(キーボード)、そして3代目ボーカル上原大史の3人体制で “第5期” として活動中。去る6月初め、オリジナル版のリリース30周年を記念して人気YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』にて公開となった「世界が終るまでは…」は、既に300万近い再生数を記録し、同曲の根強い人気を証明した。

カタリベ: 広瀬いくと

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