ロボットと英会話授業 富山県朝日町の中学校、県内初AIパイロット校に

マイク付きヘッドホンを着け、端末上のロボットと1対1で英会話を学ぶ生徒たち=朝日中学校

 富山県の朝日町教育委員会は6月、生成AI(人工知能)を活用した英語の授業を朝日中学校で始めた。英会話力の向上が狙いで、授業で生成AIを活用できる文部科学省のパイロット校指定を受けた県内唯一の取り組み。生徒は1人1台端末を使い、画面上のヒト型ロボットと1対1で学習する。7月に公開授業があり、1人1人の能力を引き出す「個別最適な学習環境」を提案し、全国に発信する。

 今月25日、朝日中2年の英語の授業では、生徒24人がマイク付きヘッドホンを着け、各端末に英語で話しかけた。画面に現れたロボットから次の問いかけが瞬時に返ってくる。やり取りが続くうちに、生徒それぞれの空間で24通りの会話が聞かれた。

 端末には対話型AI「チャットGPT」が搭載されている。生徒はそれぞれのレベルに合わせ、会話の速度や声質、質問の難易度などを調節できるという。

 同校によると、実践的な英会話の授業はこれまで、海外出身の外国語指導助手(ALT)らが限られた時間の中で大人数を相手にしていた。生徒はネイティブな英語を耳にできる一方、一言もしゃべる機会のないケースもあった。生成AI授業について英語科の吉田亜沙奈教諭は「生徒の興味関心や理解度に応じ、1人1人にカスタマイズされた学習が可能。教員の負担軽減にもつながる」と語る。

 町教委は昨年度、先進的なICT教育を実践する文科省の「リーディングDXスクール事業」の採択を受け、朝日中とさみさと小学校がモデル校になった。富山大と連携し、教員の事務業務の効率化に生成AIを導入。本年度も継続採択された上、両校は今回、県内で唯一、全国約60校の生成AIパイロット校にもなった。昨年度から生成AI教育を展開する学術・研究都市のつくば市教委や、通信大手ソフトバンクとも連携して取り組む。

 公開授業は7月9日に文科省の担当者らを招いて行い、つくば市教委も先進事例を発表する。木村博明町教育長は「生成AI授業の成果と課題を検証するとともに、高度情報化時代を生きる子どもが多様な情報を適切、効果的に活用できる能力を育成していきたい」と話している。

「話す」力の育成が課題 全国学力調査、平均正答率12.4%

 文科省が昨年度に中学3年を対象にした全国学力調査の英語で、四つの技能のうち「話す」分野の全国平均正答率は12.4%で最も低かった。新学習指導要領は英語で考えを伝え合う言語活動を重視しているが、「使える英語」の育成は課題となっている。

 「話す」は、各生徒がマイク付きヘッドホンを着用して学習端末に声を録音してデータ送信する方式で、5問が出題された。平均正答率が4.2%の設問があったほか、一つも正答できない生徒が6割を超えた。「読む・聞く・書く」の3技能の平均正答率は46.1%で、スピーキングを苦手とする傾向が顕著だった。

 朝日町教委は今回、グローバル化が進む中で英語のコミュニケーション能力が求められているとして、英会話の授業で生成AIの活用を決めた。スピーキング力の底上げにつながるか注目される。

ロボット(右)が表示された端末の画面。レベルに合わせて会話の速度などを調節できる

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