仕事を休むほどではない体調不良でも運転は控えるべきか?【役に立つオモシロ医学論文】

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

【役に立つオモシロ医学論文】

タクシーやバスなど旅客輸送を職業とする運転手は、一般的な労働者と比べて不規則な勤務形態や長時間労働になりがちです。また、定刻通りに輸送業務をこなさなければならないプレッシャーを受けることも多く、これらの要因は、運転手の健康状態を損なう原因となり得ます。

体調不良にもかかわらず仕事に従事することで、業務上のパフォーマンスが低下してしまう状態を「プレゼンティーイズム」と呼びます。

運転手にとって、プレゼンティーイズムは運転操作のミスを誘発しかねません。そんな中、運転手のプレゼンティーイズムと業務中の交通事故との関連性を検討した研究論文が、業務上の安全と健康に関する専門誌に2024年4月16日付で掲載されました。

この研究では、福岡県のタクシー会社に勤務する運転手428人(年齢の中央値67歳、男性93%、運転経験の中央値9年)が対象となりました。

プレゼンティーイズムの強度は7~35点で評価され、7~13点を低度、14~20点を中等度、21点以上を高度と分類しています。

また、運転手の自己申告に基づいて、過去3カ月間の軽微な交通事故の件数を調査し、プレゼンティーイズムとの関連性が解析されました。

解析の結果、交通事故の発生頻度は、プレゼンティーイズムが低度だった運転手と比較して、高度だった運転手で統計学的に有意な差ではないものの1.9倍の増加傾向を認めました。

また、プレゼンティーイズムの強度が高くなるほど交通事故の発生率が増加するという関連性(用量反応関係)も認めました。

論文著者らは「交通事故を防ぐためには、タクシー運転手に対する社会経済的な支援を強化し、健康管理を優先することが重要である」と結論しています。

(青島周一/勤務薬剤師/「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)

© 株式会社日刊現代