「専門職大学」の学生が就職に強い理由 親も企業も注目する学校の可能性

専門職大学の未来について熱く語る中村学長(C)日刊ゲンダイ

2019年から新しく制度が始まった専門職大学。企業にとっては即戦力の人材が期待でき、学生にとっては就職にも有利だという。これから進学を控える子を持つ親や企業の採用担当者には気になる存在だ。そこで専門職大学の一つである情報経営イノベーション専門職大学(iU)の取り組みを通して、専門職大学の可能性を探った。(前後編の【後編】)

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【Q】iUではどのような分野の専門教育に力を入れている?

iUの教育は「デジタル」と「ビジネス」の2つの軸で成り立っています。コンピューターサイエンスなどの情報系科目とマーケティングなどの経営系科目を車の両輪として、デジタル技術を活用しながら新たなビジネスを創出できる人材を育てることを目指しているのです。

もちろん、デジタル、ビジネスそれぞれに特化した大学や学部は数多くありますが、両者を有機的に掛け合わせた教育はまだ多くありません。しかし、DXが叫ばれる昨今、社会が求める人材像は大きく変わりつつあります。これからはデジタル技術への理解なくしてビジネスは語れませんし、ビジネスの実際を知らないデジタル人材も企業の役に立ちません。2つの知見を真に融合させ、イノベーションを起こせる人材を送り出すことが、iUのミッションだと考えています。

【Q】在学中に企業させる狙いは?

全学生が起業に挑戦しているのは、アントレプレナーシップ(起業家精神)を養うためです。新しいビジネスにチャレンジし、時には失敗も経験する。そういう実践を通じて、課題発見力や解決力、チームワーク力など、これからの時代に求められる能力を磨くことができます。

アイデアを形にしていくプロセスは、正解のない難題に果敢に挑んでいく姿勢を学ぶ格好の機会でもあります。「失敗大学」を標榜しているのもそのためです。学生時代の失敗は社会に出てから成功するための糧になる。チャレンジし、失敗を恐れずに学び続ける。そんなたくましい人材を育てたいという思いを込めています。

【Q】企業は卒業後のキャリアに役立つ?

iUの初めての卒業生の進路を見ると、約8%がそのまま起業を選択しました。一方で就職者も約80%います。起業という実践の中で磨いた力が、新卒採用でも高く評価されているのだと思います。最後の1年間、インターンシップで長期職場体験できるのも大きいですね。そのまま内定をもらう学生も数多くいます。そういう意味では、就職に強い大学とも言えるでしょう。

【Q】今後、専門職大学はどうなっていく?

専門職大学の設置は、日本の高等教育の歴史における大きな一里塚になったと思います。大学、大学院、短大、高専、専門学校それぞれに独自の強みがある中で、それらの垣根を超えた教育をデザインする。専門職大学にはそんな新しい時代の学びのモデルになることが期待されているのだと思います。

iUとしても、文理の枠を超え、国境をも超えた教育を追究していきたいと考えています。例えばeスポーツなどこれまでにない学びの選択肢を増やすつもりです。

そのように、専門職大学は、従来の高等教育の常識にとらわれない自由な発想で、これからの時代に求められる学びの在り方を追究していく存在になるでしょう。iUもそのために少しでも役に立てればと考えています=この項おわり

(聞き手=いからしひろき)

▼中村伊知哉(なかむら・いちや) 1961年京都府生まれ。京都大学経済学部在学中はバンド活動に従事し、ロックバンド少年ナイフのディレクターを務めた。84年郵政省入省。スタンフォード日本センター研究部門所長、慶応義塾大学教授を経て、2020年4月からiU学長に就任。著書に「新版 超ヒマ社会をつくる」(ヨシモトブックス)など多数。

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