「10年ひと昔」とはよく言うが、およそ10年前のクルマは環境や安全を重視する傾向が強まっていた。そんな時代のニューモデル試乗記を当時の記事と写真で紹介していこう。今回は、スバル エクシーガ tSだ。
スバル エクシーガ tS（2012年：特別限定車）
スバルのモータースポーツシーンで活躍するSTIは、市販車をベースにしたコンプリートモデルの開発にも積極的だ。その仕様には、エンジンはノーマルのままで、ボディやサスペンションをはじめ、内外装に手を加えることによって、ベースモデルの魅力を最大限に引き上げた「tS」シリーズと、エンジンを含めてSTIの持てる技術をフルに投入することによってポテンシャルを最大限に引き上げた「S」シリーズがある。
最近（編集部註：2012年）では が記憶に新しいが、自動車メーカーの手が届かない領域まで手を入れることによって、走りを得意とするスバルの魅力を一層引き上げることに成功している。
今回投入されたエクシーガtSは、STIが初めてミニバンをベースにしたコンプリートモデルとなる。3列シートを持ち、背が高いのがミニバンの特徴だが、STIでは従来同様、ボディの補強パーツや、リアリンクにピロボールや倒立式の専用サスなどを採用して、強靱でしなやかな走りを目指したという。
実際に走ってみると、従来のtS路線とはやや印象が異なっていた。ひと口に言えばミニバンの良さを損なわずに、走りの良さを追求した点が魅力だ。今までのtSシリーズもけっして乗り心地が損なわれることはなかったが、エクシーガではサスのストローク感を積極的に引き出し、大きな入力に対してふところ深く受け入れてくれている。
高速で段差などに遭遇してもカドがないことはもちろん、ストロークを活かしていることでボディへの入力は小さく、しなやかな乗り味を見せてくれる。もっとも、大きく動いているぶんだけ前後方向の揺れはわずかに残るものの、それもすぐに収束させ、キャビンの動きを最小限にとどめてくれている。
ブレンボ製ブレーキは多人数乗車でも安心感が高い
ペースを上げてコーナーに入っていったり、レーンチェンジを行った時の動きも自然だ。重心が高いだけに外側に動く力が強く働くものの、ジワッと沈み込むと同時にグリップ感はしっかりと高まり姿勢は安定。荷重が4輪にバランス良く乗ることで、ボディをフラットに保ってくれている。これならフル積載状況でも安心に違いない。
ドライバーが気持ち良く走れることはもちろん、少しハイペースな状況になってもパッセンジャーに負担をかけることが少なく、ロングドライブを楽しむにも適したセッティングと言うことができるだろう。
不思議なことに安定感が増したことによってパワー的にも余力が感じられるようになった。トラクションが落ちついているためか、標準車だったら姿勢の変化に応じてスロットルの微妙なコントロールをしていたが、このtSではほとんど気にせず開けていける。結果、常にパワーバンドに乗っている印象で速ささえも手に入れた印象だ。
このペースアップ化に対応すべくブレーキの強化もぬかりない。ブレンボ製の対向ピストンキャリパーの採用によって、高速でのレスポンスの良い減速感を手に入れたことに加え、コーナー進入時の減速Ｇは大幅に進化している。ひとりで乗っている街乗りなどではややレスポンスが良すぎる傾向はあるものの、強化ブレーキ特有の鳴きや引きずり感はなく、多くのシーンでそのメリットは大きい。
ミニバンはドライバーが我慢しなければいけないことも多いが、tSなら安全に気持ち良く走れる。リアシートからの不満もきっと少なくなるはずだ。
●全長×全幅×全高：4740×1775×1650mm
●ホイールベース：2750mm
●車両重量：1620kg
●エンジン：水平対向4 DOHCターボ
●総排気量：1994cc
●最高出力：165kW（225ps）／5600rpm
●最大トルク：326Nm（33.2㎏m）／4400rpm
●トランスミッション：5速AT
●駆動方式：フロント縦置き4WD
●燃料・タンク容量：プレミアム・65L
●JC08モード燃費：ーkm／L
●タイヤサイズ：215／45R18
●当時の車両価格（税込）：374万8500円
