女優・柚希礼音「あの子がもうトップになるの」宝塚トップスターのプレッシャーと努力の日々回顧

柚希礼音 撮影/有坂政晴

歴史ある宝塚歌劇団において、6年にも渡りトップスターの座を務めた柚希礼音。その華のある男役の姿は、いまも語り継がれている。宝塚退団後は、ミュージカルやコンサートを中心に幅広い役柄に挑戦。ファンを魅了し続ける当代きってのスター、柚希礼音の人生の転機とは?

よく通る声で、快活に話し始めた柚希さん。真っすぐとした瞳でこちらを見つめる姿は、舞台上でのまなざしと同じようにきらめいていた。

宝塚でプロとしてやっていくという気持ちが、いつごろに芽生えたのか尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「最初はまだお芝居でやっていこうなんて覚悟は決まっていなかった。でもクラシックバレエって、朝から晩までレッスンをしてもコンクールで踊れるのは1分半だった。発表会でも3分間の出番のために、ずっと練習をしていました。でも宝塚は、1か月半もの間公演があって、“こんなに毎日舞台に出ても良いなんて、すごく最高な環境だな”って感じました」

宝塚での公演の日々が、柚希さんを鍛え上げた。

「いまでも、宝塚での初舞台の感動は覚えています。バレエのときは、1分半の間に力が出し切れなくて、また来年に向けて練習をする、っていう感じだったのが、宝塚では毎日チャレンジすることができ、そしてどんどん良くなっていくのが実感できた。そのような環境だったので、つねに踊ることをメインに考えることができたのだと思います」

毎日、舞台に上がるなかで、柚希さんは努力する大切さを知ったという。

「どんどん舞台をやっているうちに、かっこよいダンスを踊る8人口(注:若手がレビューなどで目立つポジションで踊る組)に入ってみたいとか、先輩方が躍っているダンスをやってみたいというような目標がどんどん出てきた。そうやって目の前にあることを頑張っているうちに、新人公演(注:入団7年目までの出演者のみで上演する公演)で主役を演じるようになっていったのです」

人生で忘れられない新人公演の“主役抜てき”

柚希さんにとって、新人公演は忘れられない重要な舞台だという。周りも柚希さんを主役としてふさわしい俳優にするために奔走した。

「やっぱり新人公演の『王家に捧ぐ歌』で初めて主役をしたときから、意識が変わってきました。先輩方からもいっぱい教えていただきましたし、お客様から見て素晴らしいものを見せないといけないというプレッシャーを感じていました」

これまでのキャリアを振り返っても、「つらかったと感じたことはないですね」と答えた柚希さん。しかし、宝塚時代は歌唱で相当な苦労をしたという。

「研3(注:研究生3年生、入団後3年目)のときに、『エトワール』(注:大階段で歌って、ショーを締めくくる役割)で、4人で歌う演出があったのですが、まだまだレベルには到底達していなく、先輩方が心配して歌の先生を紹介してくださり、公演をしながら毎日必死にレッスンという日々を送っていました」

はたから見れば、厳しいプロの世界だが、柚希さんにとっては困難を克服していくことで自信につながっていった。

「新人のころは次から次へと役をいただいて、また歌う演出があると、なんとかしなければならないと練習し続ける日々でした。本当に、時間が足りないような感じでした。目の前のことに必死でしたね」

「トップはゴールではなく、そこから毎日成長するしかない」と気が付いた

柚希さんにとっての転機は宝塚に入ったこと、新人公演で主役に選ばれたこと、そして2番手になったときも、大きなハードルが立ちはだかったそうだ。

「私が2番手になったときもまだ早い時期だった。トップの安蘭けいさんとの実力差が大きかったので、なんとかしようって頑張りました。周りもみんなで私をなんとかしようとしてくれて、歌も手取り足取り教えてもらった。
私が星組トップになったときも、ほかの組のトップさんと比べるとすごく若く、“あの子がもうトップになるの”みたいな空気も感じましたし、私自身もそこまで覚悟ができていなかったです。だから、最初に思っていたトップさんって、宝塚のなかでは大きなゴールだと思っていたけれど、むしろゴールではなくてそこから毎日、成長をするしかないって覚悟を決めました」

言葉を選びながらも、丁寧に答えてくれる柚希さん。その姿に、こちらも成長しなければという気持ちにさせられた。

柚希礼音 撮影/有坂政晴

柚希礼音(ゆずき・れおん)
大阪府出身。俳優。1999年85期生として宝塚に入団。初舞台後、星組に配属。新人公演や主演を重ね、‘09年に星組トップスターに就任。6年に渡りトップスターを務めた。’15年5月に退団後も、ミュージカルやコンサートなど精力的に活動。第30回松尾芸能新人賞、第65回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第37回菊田一夫演劇賞を受賞。退団後の主な出演舞台に『COME FROM AWAY』、『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』『マタ・ハリ』など。‘24年8月には、今年で開催5回目を迎える『REON JACK5』の公演を控えている。

© 株式会社双葉社