エモいひと手間

 もう20年以上前の話。取材時の撮影にはフィルムカメラを使っていた。現像して初めて撮った画像を確認することができ、現場ではうまく撮れたかのチェックは不可能。ほぼ一発勝負で、毎回ドキドキした。
 その緊張感が今や「エモい」(心に響く)対象になっているようだ。国内で久しぶりにフィルムカメラの新機種が登場した。発売元のブランドからは21年ぶり。予約を始めた途端に注文が殺到し、翌日には受け付けを休止する事態に。注目度の高さがうかがえる。
 フィルムカメラの愛好者は、デジタルカメラの普及前に使っていた人にとどまらず、”現役時代”を知らない若者層にも広がっているという。画像がデジカメほど鮮明ではなく、柔らかな風合いに仕上がる点や、撮影から完成までの時間差を新鮮に感じる人もいると聞く。
 ただ、今から始めるなら心の準備が必要かもしれない。多くの場合、カメラ本体は中古を入手することになり、状態がよい品は数が限られる。フィルムも製造を続けているメーカーが限られ、36枚撮りが1本2千円以上。品薄が常態化しているらしい。当然ながら現像とプリントにもお金がかかる。
 この状況はレコードに似ている。CDが普及し始めた頃、レコードはいずれ消えゆく運命と思われたが、こちらも若者を中心に一定の需要を保つ。さまざまな場面で自動化が進み「引っかかり」が減っていく世の中でひと手間がリアルさの実感かもしれない。

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