被災者癒やす温もり 東日本大震災で全国から励まし受け、恩返しの炊き出し 能登地震から半年

被災者にカレーを振る舞う芳賀さん(左)=29日、石川県珠洲市

 能登半島地震から7月1日で半年を迎える。被災地では依然として多くの人が不自由な避難生活を送り、不安を募らせている。福島市のカレー専門店「笑夢(えむ)」オーナーの芳賀真さん(45)は29日、地震の爪痕が深く残る石川県珠洲市で炊き出しを行った。13年前の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の際、全国から励ましを受けて店を存続できた。「今度は自分が応援する番だ」。感謝の気持ちが被災地支援へと突き動かした。

 炊き出しの場所に選んだのは、日本海に面した大谷小中学校。今も数組の住民が身を寄せている。中心市街地から北西に約15キロ離れた地域にあり、倒壊した家屋、通行止めや片側交互通行の規制が続く道路が点在し、土砂崩れで山肌はむき出しとなっている。

 周辺には、スーパーや飲食店はない。食品や日用品を購入するには街灯のない峠道を車で約30分走り、市街地に出る必要がある。家屋倒壊時に車が巻き添えとなって移動手段がなくなった「買い物弱者」が多く、ボランティアが訪れる機会は少ないという。炊き出しの他、事前に注文を受け付けて配達した。

 笑夢から4人が現地を訪れ、大谷小中の調理室で仕込みをした。福島市から持参した香辛料や鶏肉などの他、石川県産コシヒカリ、能登産のサザエや塩、ニンニクを使ってカレーを作った。

 昼には被災者や消防団員らが次々と訪れ、舌鼓を打った。「スパイスが利いて、とてもおいしい」。自営業の村上ゆりさん(41)は日々の疲れを癒やす味わいに顔をほころばせた。自宅が全壊し、現在は空き家だった一戸建て住宅に夫と長女、長男の4人で暮らしている。地震後、復興支援の炊き出しは市街地で行われる場合が多かったという。「ニュースであまり取り上げられない地域なので見捨てられたような気分になることもあった。涙が出るくらいうれしい」と感謝した。

 芳賀さんが被災者に寄り添うのは、大震災と原発事故の際に全国の人々の真心に救われた思いがあったからだ。震災3カ月後に本店を再オープンさせたが、客足はまばらだった。全国から訪れる客から「食べて『おいしかった』と声をかけてもらえた時は勇気が湧いた」と振り返る。「支える側に回りたい」と支援に乗り出した。

 能登半島が地震に見舞われた直後から自分にできることを考えていた。ただ道路網の寸断や現地の混乱した状況を踏まえて控えていた。親交があり、能登半島でボランティアに継続して取り組むコンサルタント業の深野旭一(あきかず)さん(35)=栃木県足利市=らが協力した。

 炊き出しは28日、珠洲市の市街地や七尾市でも行い、2日間で約550食を提供した。芳賀さんは今回のような炊き出しを続ける。さらに能登産の食材を使った笑夢のレシピを考案し、復興を後押しする予定だ。「得意な食で被災地を応援し続けたい」と力を込めた。

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