50代ひとりっ子「母の死→相続手続き開始」で判明した驚愕事実…〈20年前の父の死〉から放置された大問題「死んだ人にはもう聞けない」

(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性は、母親が亡くなったことで相続手続きに着手しました。ところがそこで、20年前の父親の死から放置されていた、大変困った事態が判明し…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

父の死から20年、相続手続きをしないまま母が…

今回の相談者は、50代の会社員の鈴木さんです。亡くなった母親の財産の件で相談に乗ってほしいと、筆者の事務所を訪れました。

鈴木さんはひとりっ子で、30代で結婚してからは実家を離れ、いまは他県で家族と暮らしています。父親は20年前に亡くなっています。

鈴木さんは30代で結婚し、家を出ました。以後も両親は実家で2人暮らしをしていましたが、父親が亡くなってからは、ずっと母親はひとり暮らしでした。

「父が亡くなったとき、財産は当時の基礎控除の金額は超えておらず、相続税の申告はしませんでした。母と相談し、預金は全額母に相続してもらい、実家は2人で共有名義にしようと話をしていたのですが…」

両親と同居するつもりで買った家は、父と息子の共有名義

ひとりっ子の鈴木さんは、将来も両親と同居するつもりだったため、鈴木さんが20代のとき、父親8割、鈴木さん2割の共有名義で4,500万円の建売住宅を購入しました。頭金は1割程度負で、残りは鈴木さんも父親もローンを組みました。

「当時は父親も現役の会社員で、毎月の給料でローンの支払いができていました。金額もそれまでの借家の家賃の以下だったと記憶しています」

しかしその後、鈴木さんは30代半ばで縁あって結婚。諸々の事情で実家を離れることになりましたが、その後も両親は変わらずそこで生活していました。

遺産分活協議書、作成していたのに!?

父親が亡くなったとき、司法書士のアドバイスのもと、遺産分割協議書を作成しました。自宅は、父親の名義の8割について母親と鈴木さんで等分とし、預金は母親が相続するという内容です。住宅ローンもすでに完済しており、負債はありませんでした。

「てっきり、母が司法書士に相続登記を依頼したと思っていたのですが…。葬儀のあと、固定資産税の通知書に父親の名前があるのを見て確認したところ、父親名義のままだと判明したのです」

古い書類で手続きは可能か?

父親の相続時の遺産分割協議書を見つけることができたといって、鈴木さんは打ち合わせに持参してくれていました。

「この遺産分割協議書、果たして使えるのでしょうか? 相続人の母親は亡くなってしまいましたが…。もし使えないなら、一体今回の相続をどうすればいいのでしょう?」

筆者と提携先の司法書士が確認したところ、遺産分割協議書のほか、父親の戸籍関係の書類、相続人の母親と鈴木さんの戸籍や印鑑証明書など関係書類が一式残っていました。おそらく、法務局に申請するつもりだったのでしょう。

しかし、これらをもとに相続登記するには問題があります。自宅の持ち分10分の4を相続する母親の本人確認が、もはや不可能だからです。近年では、相続登記するにも、本人の身分証明書や司法書士による意思確認(面前、電話等)が不可欠となっています。

数次相続とは?

今回の鈴木さんのケースのように、父親が亡くなり、その相続手続きが終わらないうちに二次相続が発生することを「数次相続」といいます。10年以内に相続が発生したときの場合を指し、相続税から控除できる特例もあります。

しかし鈴木さんの両親の場合、父親が亡くなってから20年経ったところで、母親が亡くなっています。本来なら手続きができる年数がありますので、一般的な数次相続とは異なるケースではありますが、一次相続の手続きができていないうちに二次相続が発生したという点は同じです。

「手続きしなかった」ことが幸いした点

仮に、遺産分割協議のとおりに相続手続きをしていたなら、登録免許税と司法書士の手数料がかかっていました。しかし、登記をしていなかったため、いまとなっては母親分の相続登記をするすべがありません。したがって、母親の登記は飛ばし、鈴木さんが一度に父親の相続をすることになります。

すると、母親のときの司法書士の手数料や手間が省けたことになり、結果的には多少なりとも費用負担が減らせたといえます。

今回必要になる「遺産分割決定書」とは?

では、これからの手続きをどうすればいいのでしょうか?

相続人は鈴木さんだけですが、一次相続の手続きができていない場合、〈遺産分割が決定した〉という書類を作成する必要があります。「遺産分割協議書」は相続人2名以上の場合に作成しますが、その代わりとして「遺産分割決定書」を作成します。これによって、数次相続の場合、第1相続から第2相続において、相続人1人で遺産分割を決定することになります。

提携先の司法書士から説明を受けた鈴木さんはすぐ、相続登記をすることを決めました。相続手続きは1回とはいえ、父親の戸籍一式と母親の戸籍一式について、生まれたときから亡くなるまでを揃える必要があります。そうした関係書類を揃え、遺産分割決定書を用意し、不動産の名義を父親から鈴木さんに変更します。

誰も住まない実家…相続したら即売却へ

相続登記のめどはつきましたが、課題もあります。鈴木さんは空き家となった実家へ定期的に通って片づけていますが、すでに家族で暮らす自宅がある鈴木さんは、古い実家に戻る予定はありません。もし鈴木さんにお子さんがいたら、お子さんが相続する方法もありますが、鈴木さん夫婦にはお子さんがいません。

このような事情もあり、相続登記をするタイミングで売却することになりました。具体的な流れとしては、「測量」→「買主を見つける」→「契約」→「引き渡し」となります。建物は築40年近いですので、買主の希望によって、解体もしくは大々的なリフォームになるでしょう。

「まだ家には荷物が残っていますが、迷わず処分を進めていきます」

鈴木さんはそのようにいうと、安堵の表情を見せてくれました。

今回のケースでは、鈴木さんはひとりっ子でほかに相続人がいなかったため、そこまで複雑にはなりませんでしたが、複数の相続人があり、必要な手続きを長年放置している間に相続人に変化があれば、またそこで問題が複雑化し、面倒なことになります。

今回は、費用が抑えられるなどの良い点もありましたが、たまたまであり、やはり相続ごとに必要な手続きを怠らないことが、問題を複雑化させないためにも重要だといえます。

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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