『鬼滅の刃』OP&ED、マイファスとHYDEの起用は“あのキャラ”の対比か。夢幻と永久が示す物語の鍵

2024年春からついに放送が始まった、テレビアニメ『鬼滅の刃』柱稽古編
そのタイトル通り、今回のエピソードではようやく鬼殺隊の最高戦力・柱の面々全員の人柄が見える一幕も増えてきます。

そしてこれまで『鬼滅の刃』を彩ってきた主題歌アーティストも、今回は一体誰が起用されるのか。その発表をずっと楽しみにしていた人も多い事でしょう。

今回楽曲を担当するのは、熱いサウンドで大勢の支持を集めるラウドロックバンド・MY FIRST STORYと、絶大な人気を誇る国民的ロックシンガー・HYDE! 元々音楽・ロックが好きな人にとっては、まさに夢のようなコラボとなりました。

CD『夢幻/永久 -トコシエ-』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

両者が歌唱を担当するOP「夢幻」、そしてED「永久」今回なぜ、この二組による豪華コラボが実現したのか? そしてこれら二つの曲は、一体アニメ『鬼滅の刃』柱稽古編のどんな側面を切り取っているのか。

ガチオタである一方、約15年のミュージシャン歴も持つ音楽ライターの私・曽我美なつめが、紐解いていきます。※記事の性質上、アニメ未放送部分のストーリーに触れています。

HYDE&マイファス、両者はそれぞれ“あのキャラ”?

今回主題歌アーティストに、MY FIRST STORYとHYDEのダブル起用を行ったアニメ『鬼滅の刃』柱稽古編。思い返せば前作『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編でも、今作と同様MAN WITH A MISSION&miletのタッグによる、「絆ノ軌跡」「コイコガレ」が主題歌となっていましたね。

刀鍛冶の里編では炭治郎&禰󠄀豆子、そして霞柱・時透無一郎&恋柱・甘露寺蜜璃の男女コンビが物語の鍵を握るとして、男女ツインボーカルを主題歌に起用したという経緯が明かされています(※)。
※鬼滅テレビ-ワールドツアー上映開幕SP-より:https://www.youtube.com/watch?v=QPQ9rb6TtmQ

では今回の二組の起用には、どういった意図が隠されているのでしょう? 前回のように公式発信は未だないものの、物語の先の展開を知る人の中には、各アーティストのイメージにすぐピンと来た人もきっと多いはず。

結論から言えば今回の二組は、それぞれMY FIRST STORYが鬼殺隊、そしてHYDEが作中のラスボス・鬼舞辻無惨をイメージしての起用ではないでしょうか。

今回のエピソードでは新たな柱の一面が明らかになる部分も確かにありますが、それ以上に物語の局面は、禰󠄀豆子が太陽を克服した鬼となって以降、各地でぴたりと鬼の襲撃が止んだ、という状況。

無惨の狙いが禰󠄀豆子ひとりに絞られ、近く鬼と鬼殺隊の総力戦が勃発するのではという、やや緊迫感のあるシチュエーションでもあります。

事実、柱稽古編前半の雰囲気から一転、終盤ではついに鬼舞辻無惨が鬼殺隊の本丸・産屋敷邸を発見。病に臥せった産屋敷耀哉を単身で急襲し、鬼殺隊は万事休すの状態に。

そこからの怒涛の展開、そしてついに火蓋が切って落とされた一大決戦。原作未読の方は先のストーリーが気になる、ハラハラドキドキの展開が待っています。

CD『夢幻/永久 -トコシエ-』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

そんな鬼もとい鬼舞辻無惨と、大勢の鬼殺隊士及びその長である産屋敷耀哉の対峙。

その構図をソロアーティスト・HYDEと5人組バンド・MY FIRST STORYのタッグになぞらえ、それぞれ両者が掲げる思いをテーマにした曲が今回の主題歌というわけですね。

夢幻:お館様率いる鬼殺隊の、無惨に対するアンチテーゼ

オープニング曲「夢幻」を主体で牽引するのは、鬼殺隊士たちの役割を担うMY FIRST STORYです。歌詞が示すのはずばり鬼殺隊、そして当主・産屋敷耀哉が思う「本当の永遠」について。

死にたくない、永遠の命が欲しいという自分の我儘ひとつで大勢を苦しめる無惨。太陽を克服した禰󠄀豆子を手に入れその悲願を成し遂げると語る彼ですが、そんな無惨に対し、それは「本当の永遠」ではないとお館様は反論します。

「永遠というのは人の想いだ 人の想いこそが永遠であり 不滅なんだよ」
──『鬼滅の刃』16巻より引用

例え不老不死の肉体を得ようとも、それは「本当の永遠」ではない。人が死に肉体がなくなっても、誰かがその人を想う限り、そしてその意思を受け継ぎ繋ぐ誰かがいる限り、人は生き続ける。それこそが「本当の永遠」の姿だと、お館様はそう静かに告げました。

CD『夢幻/永久 -トコシエ-』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

その言葉通り、鬼殺隊という集団は千年以上無くなる事なく存続しています。当然ですが、鬼殺隊が始まった頃に生きている人など今はもう誰もいません。

それでも鬼殺隊が無くならない理由。それこそが代々受け継ぎ繋がれてきた、「無惨を倒し、鬼のいない平和な世界を取り戻す」という大勢の想いや悲願のおかげです。

「夢幻」という言葉には読んで字の如く「ゆめまぼろし」という意味もありますが、実は「儚いもの」という意味もあります。

人間は弱く儚い生き物で、自身の理想である永遠の強さとは程遠いもの。そう人間を見下し踏みにじる無惨への怒りや憎悪、そしてアンチテーゼが、お館様を筆頭とする鬼殺隊の総意として「夢幻」には込められているのです。

永久:鬼舞辻無惨の思う「本当の永遠」とは?

一方の「永久」では、HYDEが主に楽曲を歌唱。「夢幻」では曲の制作もMY FIRST STORYが担当していましたが、「永久」では作詞や作・編曲をすべてアニメ『鬼滅の刃』ではお馴染みの梶浦由記さんが手掛けています。

これまでの「鬼滅の刃」シリーズの主題歌とは明らかに一線を画す、非常に重苦しくダークなサウンドに驚いた人もどうやらかなり多い様子。

ですが無惨とお館様の緊迫の対峙や、そこから先のあまりにも絶望的な展開、そして怒涛の一大決戦を思えば、楽曲のムードはまさにぴったりの雰囲気です。

CD『夢幻/永久 -トコシエ-』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

先ほど「夢幻」の歌詞では、お館様をはじめとした鬼殺隊が無惨の思う「本当の永遠」に対するアンチテーゼを掲げている、と解説しました。

その反面「永久」では、鬼舞辻無惨が自分の求める「本当の永遠」を鬼殺隊へ真っ向からぶつける曲となっています。

すでにアニメでも明かされた通り、人間の頃の無惨はとても身体が弱く脆弱な人でした。その反動で長寿や永遠に朽ちない肉体、あるいは自由の利く強い身体を渇望した無惨。

その強固な願いと元々の傲慢な性格が合わさり、彼は鬼の長として、他者がどうなろうと自分の望みが叶えばそれでいい、という独善的な道を突き進むことになります。

誰かの力を借りることなく、一人で歩み続けられる強さ。
全員に忘れ去られても、この世から消える事のない強さ。
時代や場所が変わっても、揺らぐことのない不変の強さ。

それこそが無惨の求める「本当の永遠」で、自分あるいは鬼という生き物の理想です。堕姫・妓夫太郎兄妹が敗れた直後、上弦の鬼を集めた時も無惨はこう主張していました。

「私が好きなのは“不変” 完璧な状態で永遠に変わらないこと」
──「鬼滅の刃」12巻より引用

大量の鬼も結局はすべて、たった一人無惨が「本当の永遠」になるためのもの。ですが同時に無惨さえ「本当の永遠」であれば、彼から生み出される鬼も皆「本当の永遠」になるのです。

だからこそ「鬼滅の刃」は「鬼殺隊VS鬼たち」ではなく、「鬼殺隊VS無惨一人」が終始戦いの本質として描かれているのです。

「本当の永遠」は大勢で為すものとする鬼殺隊。「本当の永遠」は一人で為すものとする無惨。同じ言葉に関して両者が真反対の価値観を持つことも、今起こっている彼らの戦いの本質的な要因のひとつなのでしょう。

どちらが正しい「本当の永遠」なのか?

鬼殺隊と無惨、それぞれを対の存在として描く主題歌の「夢幻」と「永久」。

各曲に込められた主張のみならず、随所に散りばめられたフレーズにもよく見るとたくさんの発見がありますね。アニメ放送時に使われる部分だけでなく、楽曲の2番以降にも様々な注目ポイントが隠れていますよ。

「夢幻」に登場する「背負った名前の数を数えた」人は、まさしく大勢の隊士全員の名前をきちんと憶えているお館様その人のこと。また「幾星霜」という言葉も、物語のラストをすでに知る人にとっては非常に大きな意味を持つ言葉です。

テレビアニメ「鬼滅の刃」柱稽古編』第1弾キービジュアル

「永久」では「正しさよりも正しく」「滅びを滅ぼせ」といった歌詞が、非常に端的に無惨らしさを表していますね。寿命やルールといった誰かが決めたものは、すべて自分の力で塗りつぶす。まるで自分が神にでもなったかのような言葉に、その傲慢さや独善性を感じる人も多いでしょう。

どちらが掲げる「本当の永遠」が正しいか。それに決着をつける戦いが、柱稽古に励む鬼殺隊の面々にいよいよ降りかかります。

当然、誰しもが無傷では終われません。辛く悲しいシーンも増えてきますが、確実に近づく炭治郎たちの物語の終わりを、ぜひたくさんの方に見届けて欲しいと思います。

(執筆:曽我美なつめ)

作品基本情報

『テレビアニメ「鬼滅の刃」柱稽古編』

■スタッフ
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島 晃
アニメーション制作:ufotable

■キャスト
竈門炭治郎(かまど・たんじろう):花江夏樹
竈門襧豆子(かまど・ねずこ)※:鬼頭明里
我妻善逸(あがつま・ぜんいつ):下野 紘
嘴平伊之助(はしびら・いのすけ):松岡禎丞

冨岡義勇(とみおか・ぎゆう):櫻井孝宏
宇髄天元(うずい・てんげん):小西克幸
時透無一郎(ときとう・むいちろう):河西健吾
胡蝶しのぶ(こちょう・しのぶ):早見沙織
甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり):花澤香菜
伊黒小芭内(いぐろ・おばない):鈴村健一
不死川実弥(しなずがわ・さねみ):関 智一
悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい):杉田智和

■コピーライト表記
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

■公式サイト
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