長崎発 パリ五輪経由 NBAへ バスケ馬場雄大の再挑戦 ヴェルカで磨いた武器携え

5月に長崎ヴェルカが開いたファン感謝イベントで笑顔を見せる馬場=長崎市、県立総合体育館

 わずか1年、されど1年。プロバスケットボール選手の馬場雄大は長崎で短くも濃密な時間を過ごして、一度は阻まれた世界の壁に再挑戦する。「一日も無駄にすることはなかった。長崎での日々は代表にも直結する」。NBA選手になれるか、なれないか。パリ五輪は今後のキャリアを左右する重要な大会。確かな手応えを持って、夢への扉をたたく。

■守備の要
 22、23日に行われた世界ランキング26位の日本と5位豪州との国際強化試合。代表生き残りを懸けたアピールの場で、馬場は2試合とも先発に名を連ね、チームで2番目に長くコートに立った。
 河村勇輝、富永啓生ら高い得点力を持つ若手選手が台頭する中、28歳の馬場は守備の要としてトム・ホーバス監督の信頼を得ている。豊富な経験に基づいた駆け引きで相手の得点源を抑え、ドライブインしてきた選手に強烈なブロックショットを決めた。
 素早い攻守の切り替えは長崎ヴェルカで研ぎ澄ました武器の一つだ。出足鋭くターンオーバーを誘い、速攻から得点やアシストを記録した。22日の試合は89-90、23日は95-95。強豪相手に2試合とも互角の戦いを演じた。

■電撃加入
 Bリーグ1部(B1)の長崎ヴェルカが馬場の電撃加入を発表したのは、2023~24年シーズンの開幕を目前に控えた昨年9月末だった。
 沖縄開催のワールドカップ(W杯)で日本が48年ぶりに五輪の自力出場を決めたのが同月初旬。「ババブーン」の愛称がついている豪快なダンク、妻で俳優の森カンナさんの存在でも知名度がある花形選手の5季ぶりの国内復帰に、高い関心が寄せられた。
 馬場はアルバルク東京でBリーグを2連覇した後、19年夏に世界最高峰リーグNBAを目指して渡米。下部リーグのテキサス・レジェンズに入団したが、ほどなくコロナ禍の影響でリーグが中断した。豪州移籍を経て出場した21年東京五輪は予選3戦3敗。NBA入りはかなわず、W杯は所属先がない状態で戦っていた。
 くすぶる大物に目を付けたのが、Bリーグに新しい風を吹き込んでいた長崎ヴェルカだった。初代監督で現社長兼GMの伊藤拓摩氏は、馬場がレジェンズに所属していた当時にコーチを務めていた縁がある。W杯後、極秘裏で長崎に呼び寄せてオファーを出した。
 伊藤氏には勝算があった。日の丸を背負って五輪に出場できるのはわずか12人。馬場クラスでも席が用意されている保証はない。そんな中、21年に就任したホーバス監督が採用する「ファイブアウト」のスタイルは自らが米国から持ち帰り、いち早く長崎ヴェルカに落とし込んでいた戦術。日本代表と同じ戦い方をアピールできるのは大きな強みだった。
 「彼はパリ五輪のために日本に帰ってくる。それなら、日本代表が彼に求める役割を、ヴェルカが一番提供できるよと強調してプレゼンした」。とんとん拍子に入団会見の日取りが決まった。

■相乗効果
 新天地で馬場は期待にたがわぬプレーを見せる。日本人離れした身体能力を生かして外国籍選手と対等にマッチアップ。昨季までのB1参入初年度クラブ最多勝利数を上回る27勝を挙げる原動力となった。
 代えが利かないエースは海外在籍時よりも必然的にボールを託される場面が増え、自らの成長も促された。能力に任せて直線的にアタックするだけでなく、相手のリズムを崩す技が増えた。プレーの幅が広がった。
 精神面では責任と自覚が芽生えた。一つのボールをどれだけ大切に扱うか。一つ一つの試合にどれだけ責任と自覚を持つか。その覚悟が、最後に勝負を分けるとあらためて知った。

■夢への扉
 長崎生活を始めて半年。日本代表として戦った今年2月のアジアカップ予選の中国戦で、馬場はチーム最多の24得点を記録。勝利の立役者となった。主要大会では88年ぶりとなる中国撃破だった。
 前半に3本の3点シュートを決めたのはドライブを警戒した相手が引いて守ったから。ホーバス監督も「馬場は右にドライブに行きがちだったけど、ジャンプストップとかいろいろできるようになった。プレーに深みが出た」と高評価。馬場が代表内で不動の地位を確立する試合となった。
 馬場自身も5月、中国戦について言及している。「考えて出したわけじゃなく、本当に自然と出たプレーだった。毎日の積み重ねが大一番に出る。自分がどうあるべきかをヴェルカで学んだ。そこは五輪につながる」。長崎で過ごした時間をかみしめ、パリへと思いを巡らせた。
 パリ五輪は26日で開幕まで残り1カ月。日本はドイツや地元フランスなどの強豪国と同じ組に入った。世界にその名を広めるには絶好のシチュエーションだ。1年前の長崎ヴェルカ入団時に「僕のゴールは変わっていない。NBA選手としてやっていきたい」と言い切った馬場。実り多き日々を自信に変えて、長崎発パリ経由NBA行きの切符をつかみにいく。

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