【映画】衝撃の実話『フェラーリ』は、いよいよ2024年7月5日(金)全国公開! エンツォの真相が、いま明かされる

当Webモーターマガジンでも していた映画『フェラーリ』が、いよいよ2024年7月5日(金)から全国公開される。その概要を、映画評論家の永田よしのり氏に紹介してもらおう。(Ⓒ2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.)

エンツォの、公私ともに知られざる面も描いていく

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文字どおり、本作品はクルマ好きならばその名前を知らないはずがない、イタリアのフェラーリ社の創始者であるエンツォ・フェラーリの人生を基にした伝記映画だ。

この映画で最大のポイントとして描かれるのは、当時国民的人気を誇った、一般公道約1600kmを走り抜ける「ミッレミリア」というレースで1957年に実際に起きた出来事。そして、それとともにフェラーリという人物の、今まであまり語られることのなかった、公私ともに知られざる面も描かれていく。

エンツォ・フェラーリという人物は、第一次世界大戦後からレーシングドライバーとして活躍。1947年にフェラーリ社を設立し、レース界、そして車両の製作へと向かった。イメージでは冷酷で不遜な男という面が語られることが多いエンツォだが、映画ではもっと人間臭い部分がピックアップされているように思える。

「フェラーリ」というビッグネームは、いかにして形成されていったのか? 実生活ではどのような生活をしていたのか? そして彼にとって自動車産業とは何だったのか? 孤高の男たちの姿を描くことでは定評のあるマイケル・マン監督(ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演した1995年の「ヒート」などが有名)が、エンツォ・フェラーリ役に「スター・ウォーズ」シリーズ「エピソード7〜9」のカイロ・レン役でブレイクしたアダム・ドライバーを据えて描く本作品。夢を追い続ける男の理想と実生活の狭間を漂う、狂気と哀切さえも漂う1本となっている。

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1956年に長男のディーノを亡くしたエンツォ。失意の中、逼迫するフェラーリ社の経済状況を打破するため、1957年にはイタリアの国民的人気イベントで、一般公道を1600kmも走り抜ける「ミッレミリア」レースで優勝することが命題となっていた。ここで自車が優勝すればフェラーリ車の生産依頼が増えることを狙っていたのだ。

表舞台でフェラーリ社の顔として動く彼の私生活は、会社の正式パートナーでもある実妻との別居、別宅で過ごす女性と息子との二重生活。いくつもの顔を持ちながら過ごす日々。そこには本当の安息が訪れることはなかった。そしてフェラーリ社の命運を握る、ミッレミリアがスタートする。誰もが思いもしないゴールが間近に迫って来ていることなど、スタート時、誰ひとり想像していなかった・・・。

数々のレーシングカーたちが、スクリーン狭しと走り抜ける!

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マイケル・マン監督が、不遜と称されたエンツォ・フェラーリの人間性を描く、こんな場面がある。早朝に家を出るときに、まだ眠っている息子とその母親を自身のクルマのエンジン音で起こさぬように気遣い、当時愛用していたプジョー 403ベルリーヌのエンジンをかけずにクルマを押して家の門を出て行く場面だ。その場面を観るだけでも、フェラーリという人物が、けっして不遜と称されただけの男ではないことが分かる、人間味をかいま見ることが出来る。

マイケル・マン監督は、そうしたちょっとした“男の気遣い”を映画の中で見せることで、登場人物たちに愛着を持たせてくれる手法をよく使う。それは本作品で描かれるワンシーンだけでも見てとることができる。

そしてレースシーンが白眉となる本作では、登場する数々の名車たちを紹介しないわけにはいかない。1957年当時、「ミッレミリア」に出場していたフェラーリ 315S、同 335S、マセラティ 450S。他にも、アルファロメオ ジュリエッタSV、ポルシェ356カレラGS、同 550スパイダー、オスカ MT4など、現存する実車たちからCGスキャンして作成している。

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各車を保持しているオーナーたちからも映画のために貸し出しする旨の相談もあったという。なまじVFXなどで画面にクルマを描写されるよりも、実車が走ることで当時の空気感や実存感が出るのは当たり前のこと。そして、それぞれ独特のたたずまいを見せる各車たちの美しいこと。最近のどれもこれも同じようなデザインばかりのクルマにはない愛らしさ、セクシャリティには、ただただ見惚れてしまうのではないだろうか。

映画は、エンツォ・フェラーリの人生の、ほんの1年あまりを描いていく。だが、その短い期間の中だけでも、彼の人生を想像することができる構成になっている。それが映画のマジックでもある。我々は1988年に彼が亡くなってから、35年の時を経て製作された本作を観ることで、フェラーリの本質の一端に少しだけでも触れることができるのかもしれない。(文:永田よしのり)

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●2024年7月5日公開/132分
●監督:マイケル・マン
●出演:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー、ほか
●配給:キノフィルムズ
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