【特集 メルセデス・ベンツが切り拓くハイブリッド新時代の今③メルセデスAMG GLC 63 S Eパフォーマンス】PHEVを瞬間レスポンスと有り余るパワーに全振りしてみたら、やっぱり凄かった

電動を推し進めつつも、内燃機関の進化を止めないことを明言しているメルセデス・ベンツ。その未来戦略の橋渡しとなる「ハイブリッド」たちは果たして、どんな魅力を実感させてくれるのでしょうか。第三回は2024年2月に日本向けの発売が開始されたメルセデスAMG GLC 63 S Eパフォーマンスの試乗レポートをご紹介。システム最大トルク1020Nmをどう使いこなす?(MotorMagazine2024年7月号より再構成)

プラグインハイブリッド「メルセデスAMG GLC63S Eパフォーマンス」概説

メルセデスAMGは2024年2月15日、日本市場向けにプレミアムミドルサイズSUV「GLC63 S Eパフォーマンス」を発表しました。新型では伸びやかで美しいシルエットや質感の高いインテリアが醸し出す洗練感に加え、オフロード性能も向上しています。

高度なフィードフォワード制御を行うAMGダイナミクスを採用。ドライバーの入力やセンサーからのデータをもとに、ドライバーが望む車両挙動を先取り。優れたコーナリング性能と最適なトラクションを実現するとともに、信頼性の高いドライブフィールを生み出している。

パワートレーンは、2L直列4気筒ターボエンジンに交流同期モーターとAMG 自社開発の高性能バッテリー(6.1kWh)、さらにパフォーマンス志向にセッティングされた4MATIC+を組み合わせたもの。システム出力は680ps(500kW)、最大システムトルク 1,020Nmを発生します。ちなみに0→100km/h 加速はわずか 3.5 秒です。

交流同期モーターは定格出力 80kW、ピーク出力 150kW(最大10 秒間)を発生。リアアクスルに搭載されており、電動シフト式 2 速トランスミッションおよび電子制御式リミテッド・スリップ・デフと合わせて、コンパクトなエレクトリックドライブユニット(EDU)にまとめられました。

このコンパクトな設計レイアウトは、動力の伝達がよりダイレクトで、とくに発進時、加速時などの瞬発力が増すと言います。また前後重量配分やアクスル荷重の配分が改善され、ハンドリング性能を向上させています。

ちなみにEV走行可能距離は16kmと、実用的なレベルを確保している。AMG ハイパフォーマンスバッテリーの容量は、ー容量は 6.1kWh。F1 ハイブリッドレーシングマシンの先進テクノロジーがフィードバックされている。

この電気モーターは、プロペラシャフトを介してフロントにも駆動力を配分。リニアな特性と合わせて、最適な4輪トラクションバランスを実現します。

加えてESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)によるブレーキ介入の代わりに、リアLSDを介して伝達される駆動トルクを電気的制御によって低減する効果も発揮。4輪いずれかのホイールがスリップ状態になっても、限界域まで高いトルクを無駄にすることなく伝達することが可能になりました。

統合型車両運動特性制御システムの「AMG ダイナミクス」の採用も含めて、あらゆる領域で車両の安定性を損なうことなくアジリティを高めるための先進技術が、惜しみなく投入された1台・・・まさにF1譲りの電動化テクノロジーが盛りだくさんのパフォーマンスを、島下泰久氏が公道でチェックしました。(ここまでWebモーターマガジン編集部)

1020Nmに達する強トルクを、どう使いこなすか

パワートレーンの電動化を進めるメルセデスAMGから新たに登場したGLC 63 S Eパフォーマンスは、従来の4L V8ツインターボエンジンに代わって、2L直4ターボ+電動コンプレッサー、そして高出力モーターを組み合わせて搭載するプラグインハイブリッド車だ。

熟練マイスターが手組みしたAMG製「M139」エンジンは476ps/545Nmを発生する。エレクトリック・エグゾースガス・ターボチャージャーの採用によって、アクセル操作に対するエンジンのレスポンスがいっそう 自然なものになるほか、アジリティや発進加速性能の向上につながる。

ただし、メルセデスAMGは電動化を必ずしも環境性能のためではないとする。電気モーターならではの瞬間レスポンス、爆発的なパワーが、目指す走りの世界に合致するからこその電動化だというのが、彼らの弁だ。

すでに同じパワートレーンはC63 S Eパフォーマンスにも搭載されている。M139型2L直4ターボエンジンは単体で最高出力476ps、最大トルク545Nmを発生。ターボチャージャーは排出ガス流量が小さい低回転時には電気モーターで駆動されて素早いレスポンスを可能にする。

トランスミッションは9速のギアを持つAMG スピードシフトMCT。エンジンは、ベルトドライブ式のスタータージェネレーターであるBSGも組み合わされる。

そしてリアアクスル側に搭載されるのが電気モーター、2速ギアボックス、電子制御LSDなどが一体化されたEDU(エレクトリックドライブユニット)。定格出力109ps、ピークでは204psを最大10秒間キープする。

これらを組み合わせたシステム最高出力は680ps、最大トルクは1020Nmにも達する。先代が同510ps、700Nmだから、その差は歴然である。

走りのためのPHEV化だが、乗り味はいたってジェントル

さらにこのクルマの性格を雄弁に物語っているのがバッテリー搭載量だ。容量は6.1kWhで、EV走行距離は16kmに過ぎない。最初に記したように、PHEV化はあくまで走りのためなのだ。

AMG ダイナミックセレクトには「Electric(電動)」、「Comfort」、「Battery(バッテリーホールド)」、 「Sport」、「Sport+」、「Race」、「Slippery(滑りやすい)」、「Individual」の8つのモードを設定。駆動システムとトランスミッションのレスポンス、ステアリング特性、サスペンションの減衰特性、サウンドなど、主要なパラメーターが変更される。

外観は、いかにも猛々しい。とくに、縦ルーバーを備えた専用のフロントグリルを備えたフロントマスクは、いかにも好戦的だ。ボディ同色のホイールアーチが大きく張り出しているが、21インチの大径タイヤ&ホイールはそこからはみ出さんばかりである。

それでも日常域の走りは、いたってジェントルである。コンフォートモードでは発進を電気モーターが担うハイブリッド走行を行い、頻繁にエンジンが停止する。エレクトリックモードなら最高125km/hまでEV走行が可能だ。本領を発揮するのはスポーツモードから。切り替えると排気音が一気に野太くなる。

まず印象的なのは、一瞬のラグも感じさせることなく立ち上がるパワーとトルクである。おかげで車重2350kgにもなるクルマにもかかわらず、軽々と発進し、そして速度を高めていく。音質低めのエンジンサウンドは小気味良く、加速も勢いがある。しかも、どの回転域からでもアクセルペダルを踏み込めば即座に加速態勢に入り、待ち時間がないのが良い。

当然、これには高出力モーターも大いに貢献しているが、加速感はあくまでエンジンのビートの効いた吹け上がりに呼応してパワーが盛り上がる感覚。それが良い。

積極的にアクセルペダルを踏みたくなるフットワーク

フットワークの仕立てはニュートラルステア感が非常に強い。リアモーターが強力なだけでなく、前後重量配分もリア寄りなことも効いているのだろう。ターンインは軽やかだし、コーナー出口ではリアから押し出してくるような感覚もあり、ついついアクセルペダルを踏ませるのである。

デジタル化の進んだインテリア。ハンドルには液晶のドライブモードセレクターが備わる。車内でよりエモーショナルなサウンド体験を味わえる、AMGリアルパフォーマンスサウンドを標準装備。

直4ユニットを用いたAMGモデルであるこの63シリーズ、そして43シリーズ。噂ではユーザーの支持はいまひとつで、V8の再登板もあり得ると囁かれている。

もちろん、その気持ちもわかるのだが、とくにこのGLCに関して言えば、SUVということで車重が嵩むこともあり電気モーターのレスポンスと高出力は大いにプラスに働いていた。内燃エンジンだけでは実現できない走りが、クルマの魅力を押し広げているのだ。(文:島下泰久/写真:永元秀和)

メルセデスAMG GLC63 S Eパフォーマンス 主要諸元

●全長×全幅×全高:4750×1920×1635mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:2350kg
●パワートレーン:2L直4ターボ+モーター
●総排気量:1991cc
●エンジン最高出力:350kW(476ps)/6750rpm
●エンジン最大トルク:540Nm(55.5kgm)/5250-5500rpm
●モーター最高出力:150kW(204ps)/4500-8500rpm
●モーター最大トルク:320Nm/500-4500rpm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:4WD
●WLTCモード燃費:9.8km/L
●タイヤサイズ 前:265/40R21、後:295/35R21
●価格:1780万円

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