リアルサウンド連載「From Editors」第63回:映画『チャレンジャーズ』は三角関係版『SLAM DUNK』!? 全てを満たす至高作

「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

第63回は、特撮とメタルが好きな信太が担当します。

映像、音楽、ストーリー、キャスト…全てが最高でしかない『チャレンジャーズ』

ルカ・グァダニーノ監督の最新映画『チャレンジャーズ』が素晴らしすぎて興奮が止まりません!

映画館で観終わった瞬間、こんなにもすぐ「もう1回観たい!」と思った作品は久しぶりかも。『君の名前で僕を呼んで』(2017年)、『サスペリア』(2018年)、『ボーンズ アンド オール』(2022年)……など数々の名作を生み出してきたルカ・グァダニーノの代表作を塗り替えるような、凄まじい傑作だと思います。

本作は、2人のテニス選手=パトリック・ズワイグ(ジョシュ・オコナー)&アート・ドナルドソン(マイク・フェイスト)による、とあるシングルスの試合を軸にしながら、時間が遡っていく形で物語が展開していきます。しかし、いわゆるスポ根的なスポーツの描き方とは一線を画しており、テニスを介して浮き彫りになっていくのは、主人公 タシ・ダンカン(ゼンデイヤ)、パトリック、アートによる、時間が経てば経つほど濃密になっていく三角関係。これ、まさに三角関係版の『THE FIRST SLAM DUNK』ではないかと思いました。

まず、とにかく度肝を抜かれたのは、競技や試合の枠を越えて、テニスが官能的なアートのように描かれていること。滴る汗、相手を見つめるまなざし、サーブを打つ際の所作など、選手の肉体の映し方がとにかく生々しいのです。しかも、そこに滲み出るのは個々人の葛藤やエゴ。直接的な性的描写は最小限ですが、個人種目であるテニスを通して、繊細でエロティックな関係性がほとばしる様はめちゃくちゃ刺激的でした。

なお、従来の青春スポーツ作品なら、ライバルの男性主人公同士でヒロインの取り合いになる……というのが定石なところ、本作は(メインビジュアルが示唆するように)主人公である女性の視点から2人の男性を見つめているのです。それもあってか、夢(≒優勝)を追う過程で恋愛を手にしていくような物語とは全く異なっており、男性キャラクターが欲望、あるいは諦念を剥き出しにしているところもユニークです。また、2人同士の関係として完結しているはずなのに、そこに強烈に第三者の存在が介在していて、二者関係を成り立たせるために、むしろ三者関係が不可欠なものになっていく……。テニス映画でありながら、リアルな男女関係を描いた作品として非常にスリリングなものになっていることに感服しました。しかも本作に没入すればするほど、自分自身のアイデンティティ(仕事や地位、あるいは恋愛にも置き換えられるでしょう)の在処にも思いを馳せたくなるはずです。

キャストも最高でした。ゼンデイヤは『スパイダーマン』シリーズや『デューン 砂の惑星』をも超える圧巻の名演を見せていたと思います。パトリックを演じるジョシュ・オコナーとは『ゴッズ・オウン・カントリー』(2017年)で、アートを演じるマイク・フェイストとは『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)ですでに出会っていたのですが、この2人が対照的な男性像を演じていることも素晴らしかった。しかも2人とも本当にプロテニスプレイヤーにいそうな雰囲気で、フォームの美しさや試合の臨場感まで、完璧に“再現”されているのも没入感を高めるポイントだなと思いました。

もう1つ触れておきたいのは、トレント・レズナー&アッティカス・ロスが手がけた音楽。これが映像と絡み合うことで、映画を何段階も素晴らしいものにしています。前回ルカ・グァダニーノとタッグを組んだ『ボーンズ アンド オール』での幽玄な劇伴とはまた異なり、『チャレンジャーズ』で基調とされているのはテクノ。スポーツの熾烈なフィジカルやダンスフロアの官能性、互いの思惑が交錯する緊張感を見事に表現し切っており、どことなくNine Inch Nailsとしての側面が滲み出ている「Yeah x10」をはじめ、90’sっぽいエッセンスが満載なところも心憎いです。

本作が辿り着くクライマックスは、間違いなく近年随一の面白さでした。映画『チャレンジャーズ』、絶対に必見です!

(文=信太卓実)

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