『光る君へ』見上愛の「仰せのままに」に詰まった覚悟 道長の父・兼家に重なる表情も

『光る君へ』(NHK総合)第26回「いけにえの姫」。大地震が襲うなど、都で災害が続く中、道長(柄本佑)は安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)から、この天変地異を治めるためには道長の娘・彰子(見上愛)を入内させるしかないと進言される。

その頃、心労から体調を崩した一条天皇(塩野瑛久)は、譲位して定子(高畑充希)と暮らしたいと行成(渡辺大知)に相談していた。それを聞いた道長は、事態を好転させるために彰子の入内を決意する。肝心の彰子は驚く様子もなく、「仰せのままに」と答えるばかりだった。

藤原彰子を演じる見上愛はNHK大河ドラマ初出演。第26回で登場した成長した彰子は、その物憂げな面持ちが強く印象に残った。まだまだ幼い身の上だが、一条天皇に入内することが決まる。そんな彰子は表情に乏しく、何を考えているのかとらえどころがない。弟・田鶴(小林篤弘)はそんな姉のことを「ぼんやり者」と表していた。だが、見上の表情が映し出されるとき、何か言いたげに動く眉や目元、口元から、真意まではつかめなくとも何か彼女なりに思いがあることが伝わってくる。だが同時に、自分の意見を口にすることをためらうようにも、純粋に自分がどうしたいのかが分からず、思い悩んでいるようにも見えた。道長ら家族の彰子への接し方もあいまって、見上の佇まいからは彰子が難しい年頃にいることが表れている。

第26回で彰子演じる見上が発した台詞は、道長と向き合う場面での「仰せのままに」だけ。目を伏せ、不満があるのか、それとも悲しい気持ちを胸に秘めているのか、やはりとらえどころのない沈んだ顔をしている。同じ言葉を淡々と繰り返すだけの彰子に、道長は思わず「分かるかと聞いておるのだ」と少しだけ語気を強めて言った。だが、彰子が決して投げやりに「仰せのままに」と繰り返しているわけではないことは、父や母の言葉を受けた際に絶妙な反応を見せる見上の演技から感じ取れる。

彰子が繰り返した「仰せのままに」という返答は、むしろ彰子が、道長の妻・倫子(黒木華)以上に、政治の中枢に立つ父の苦悩を理解しているのではないかと思わせる。とはいえ、父が少し語気を強めた際には、彰子は萎縮したように視線を落とした。道長が半ば呆れるような声色で「今日はもうよい」と言った時、彼女はどんな気持ちでいたのだろうか。諭すような口調で「また話そう」という父を、彰子はもの悲しげな顔つきのまま、チラと見る。その視線がなんとももどかしい。

そんな彰子について晴明はこう言っていた。

「私には見えまする。彰子様は朝廷のこの先を背負って立つお方」

裳着の儀式でも、彰子は晴れない顔のままだった。だが、左大臣の娘として一条天皇に入内することの影響が大きいのは確かだ。今後、晴明のいう“朝廷のこの先を背負って立つ”人物へと変化していく様に期待が高まる。

第26回では、道長の言動が、かつて政権を握っていた父・兼家(段田安則)の意思とは違えど、少しずつその地位に見合ったものへと変わりつつあるのも興味深かった。そのきっかけのひとつには詮子(吉田羊)の言葉もあるだろう。詮子は道長から彰子の入内について相談を受けた時、こう言った。

「道長もついに血を流す時が来たということよ」

詮子と対話する前まで、道長は娘を入内させる気などなかった。晴明の進言に声を荒らげたり、詮子の前で「されど彰子はまだ子ども」と口にしたり、子どもを大切に思う父親としての気持ちが強かった。しかし、公式サイト内のキャストインタビュー動画「君かたり」で柄本が語るように、道長には「自分が左大臣として帝を支えていくものとしてやらなくてはいけないこと」という気持ちもある。柄本は、彰子の入内に向き合う道長の、父親として、一方では左大臣として葛藤する様を、台詞の言い回しや顔つきから感じ取れる感情の機微によって表している。

道長はどのような状況においても冷静さを保とうとしているように見えるが、時々、その表情に本心が浮かぶのが人間くさくて魅力的だ。晴明の前で道長は「彰子は入内して幸せになれるであろうか」と口にするが、その口調は娘の将来に気を揉む父親の心情が強く表れている。だが、晴明が「私の使命は一国の命運を見定めること。人一人の幸せなぞは預かり知らぬことでございます」と言い切ると、道長はチッと舌打ちする。他人事のように話す晴明への苛立ちをはっきり見せたのが面白い。そんな折、この正直なやりとりが道長の思考をクリアにしたのか、道長はおそろしく冷静な声でこう言った。

「わかった。中宮様が子をお産みになる月に、彰子の入内をぶつけよう」
「よい日取りを出してくれ」

晴明に命じる道長のまなざしは冷酷にも映る。娘の入内は家のためではなく、世の安寧のため。そこが父・兼家との違いではあるが、意志を固め、物事を推し進める姿には父・兼家の政への姿勢が重なる。

石山寺でまひろ(吉高由里子)が道長と再会するところで幕を閉じた第26回。権力を固めながらも気苦労の絶えない道長にとって、まひろとの再会はどんな影響を及ぼすだろうか。

(文=片山香帆)

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