能登半島地震-識者に聞く/金沢工業大学工学部環境土木工学科准教授・片桐由希子氏

◇さまざまな人の思いをどれだけ込められるか
□風景の継承を前提とした復興とは□
東京から金沢に来て5年目になる。能登半島にはプロジェクトなどの関係で1カ月に1回程度通うようになっていた。能登の里山・里海の風景は多様で美しく、この風景をめぐりながら移動するのは楽しい時間だ。昔ながらの暮らしに結び付いた風習や文化、工芸も継承されている。こうした能登半島に魅せられ、移住してきた人も多い。
今回の地震は複合災害への対応が課題となっている。風景は地域の自然に根差した生活の積み重ねにより形成される。土砂災害への対策と道路などのインフラ復旧、農業・漁業の生産基盤と生活再建など、領域も時空間のスケールも異なる話が同時に期限を感じながら進められるという状況で、どのように風景の豊かさをつむぐことができるのか。復興に向けた空間デザインの前提として、能登の風景の何を大切とするのか考えること。復興のプロセスを通じ、さまざまな人の思いをどれだけ込めることができるかが重要と考える。

□被災自治体の復興マネジにサポートを□
6月27日に発表された「石川県創造的復興プラン」では、参考資料となるマップデータ集の作成に参加した。一つ一つの情報は得ることはできても、これを重ね合わせ、総合的に検討することが簡単ではない状況という状況が分かった。いろいろな人の思いを受け止めながら計画を作り、復旧・復興を進めるのは県や市町の役割になる。しかし人員体制が十分とは言いがたく、一つ一つの情報を重ね合わせながら客観的な評価を加え検証していくことは容易ではない。
急速な社会変化が進むことが予想される被災地では、東日本大震災の高台移転や防潮堤の建設とは異なり、状況に合わせて柔軟な対応を許容する必要がある。このような検証を重ねながら計画を進めること、そのための継続的な人員や予算措置が求められる。

□当事者による創造的復興を実現するために□
「創造的復興」は、地域が維持していくために新しい社会システムを構築することと理解している。林道や農道なども含めて道路ネットワークを再編し、崩壊した無数の斜面をどのように復旧するのか。そしてどこにどのように暮らすのか。二拠点居住、関係人口的な関わりと宿泊施設のような建物利用の組み合わせなど、移住せざるを得ない場合もつながりを保てるような仕組みも含め、集落のかたちや住まい方を再考することも必要とされよう。
復旧・復興の本格化により、多くの動きが同時に進むこととなる。さまざまな制約もある中で、復興の当事者となる地元コミュニティー、あるいは個人がより良い解決策を選択していくことができるよう、多分野の実務家と学識者との間に効果的な連携が望まれる。

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