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定年や役職定年を間近に控え、「定年後のキャリア」について悩んでいる人も多いでしょう。『おじさんの定年前の準備、定年後のスタート 今こそプロティアン・ライフキャリア実践!』(総合法令出版)著者の金澤美冬氏が、そんな「役職定年を控えるサラリーマン」にインタビューを行いました。本書より、銀行のシステムセンターで所長を務める58歳男性のケースをみていきましょう。
銀行のシステムセンター所長の58歳男性が抱く「理想の定年後」
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定年退職後は、「社会貢献」の実感を得られる職に就きたい ――じぃさん(58歳/役職定年まであと2年・定年まであと7年)
<略歴>
1962年兵庫県生まれ。理系大学卒。
大学を卒業した80年代当時、情報処理やシステム開発は最先端の職ではあったものの、大学からの推薦が得られず、また新卒雇用は限られていたため、希望していた電子メーカーではなくシステム開発に関わる大手銀行の子会社に就職。
以降、数度の転職からコンプライアンス統括部など様々な部署を経験し、現在は銀行のシステムセンター所長の職に。
プライベートではアマチュア無線クラブや公園の愛護会などにも参加したこともあったが、単身赴任などを機に足が遠のき、現在は社外の友人はほぼいない。定年後はこれまでやってきたシステム開発ではなく、様々な仕事をやってみたいと考えている。
家族は妻、長女、次女。休日は趣味である自転車に乗って妻と一緒に出かけることが多い。
<資格・取り組み>
保育士と電気工事士の資格を取得している。情報処理安全確保支援士資格試験を4回目で合格。電験三種資格試験4科目中1科目合格。残り3科目を2年以内に取得する予定。
――現在は銀行のシステムセンターの所長をされていますね。
じぃ:はい。勤めている銀行では定年間近の人がこのポストに就くことが多く、私も慣習にならって所長になった感じです。役職定年まではあと2年弱、定年退職まではあと7年弱あります。継続雇用希望者は途中で辞めていく人が多いです。
――どうしてですか?
じぃ:継続雇用だと報酬がグンと下がるんです。さらに62〜63歳くらいになると、アルバイトと変わらないくらいの賃金になる人も多いので。ただ、退職後、転職や独立を具体的に考えている同僚は少ないようです。
――そういった将来の話を同僚とする機会はありますか?
じぃ:なくはないですけど、いろいろな人とは喋らないです。ただ、人によっては「住宅ローンが残っているから、退職金で残額を返済して、そこからは別の仕事をしたいんだ」なんていう話を聞いたことがあります。
定年後ネックになる「お金」の問題
――定年後の生活をする上で「住宅ローン」などは大きな壁になるような気もします。
じぃ:私は賃貸なので住宅ローンの問題とは少し違うんですけど、不安に思うところは同じです。定年後、お金をどうやりくりすべきかという点ですね。
定年後にやってみたいことはたくさんあるんです。複数の仕事を掛け持ちするのも楽しそうですし、「趣味の自転車で観光案内の仕事をやる」なんていうのもやってみたいです。若い頃は「定年後は、仕事をせずに生活したい」なんて思うこともありましたが、いざこの歳になってみると「いろいろな仕事をやってみたいな」と思うようになりました。
ただ、やはりここでネックになるのが「お金」です。賃貸とはいえ毎月まとまった金額が出ていきますので、「そこそこ稼がないと厳しいだろう」と思って。現在はとても迷っていて、「模索をしている」という感じです。
「電気工事士」と「保育士」…現職とは無関係の2資格を取得したワケ
――ただ、積極的に社外に目を向けた実践はされているようですね。また、資格も複数持っていらっしゃいます。
じぃ:もともとは持っていなかったんですけど、銀行の部署異動先によっては、特化した資格を取らされることがありました。
正直「仕方がないから勉強して取った」みたいな感じでしたが、そこで気づいたこともありました。「どうせなら、定年後の自分に役立ちそうな資格を取ったほうが良いだろう」ということです。それで、現在の職とは全く関係のない電気工事士や保育士の資格を取得したりしました。
電気工事士も保育士も、「役に立った」実感を持てる
――電気工事士と保育士自体はかけ離れた資格のようにも思えますが、この2つを取得した理由は何だったのですか?
じぃ:電気工事士資格を取った理由は、高校時代にアルバイトでやっていた電気工事が楽しかったので、もう1度やってみたいと思ったからです。
そして、保育士は直接的に子どもや親御さんからのレスポンスがあり、「役に立った」という実感を持てそうだからです。「『役に立った』実感を持てる」という点で言えば、私の中では電気工事士も保育士もそれほどかけ離れたイメージはないんですね。
――どういうことですか?
じぃ:電気工事の場合、工事作業を終えた後に何かが使えるようになります。その際に「役に立った」という実感を持てるという点では、今言った保育士の仕事と同じなんです。
今までに銀行でやってきたシステム開発の仕事は、とにかく「取り組んだプロジェクトを終わらせること」だけに注力し、「状況を上司に説明する」「経営陣に説明する」といったことが中心で、肝心の「社会にどう役に立っているのか」という実感がわかないんです。
サラリーマンは「役に立った」という実感を得にくい
――当然、銀行でやられていたシステム開発も社会貢献度は高いと思いますが、個人的な「レスポンスがない」ということですか?
じぃ:そうです。サラリーマンは皆そうだと思いますが、何かの仕事に取り組み完結させたとしても、フィードバックと言えばせいぜい「ボーナスが増えた」くらいです。実際に「ありがとう!」「役に立ちました!」といった声を聞くわけではありません。
またシステム開発は、例えば建築のように「橋を作った」といったように目に見えるカタチで残るものではなく、仮に革新的なシステムを開発してもなかなかクローズアップされないものなんです。
一方、失敗すると途端に叩かれるのもシステム開発であったりするのです。ですから、こういった仕事は定年までにして、定年後は会社に縛られることなく「実感を持てる仕事」に就きたいなと思っています。
余談ですが、保育士の資格を取るための実習で保育園に行ったんですよ。最初「おじさんが来たら、保育園の子どもたちは警戒するんじゃないかな……」と思ったのですが、子どもたちは「初めて見る人」を珍しく思うみたいで、皆が私のところに集まって来てくれる。
私の手をつないで離さない女の子までいて、「こんなにモテたの人生で初めてなんだけど」と思いました(笑)。こんな風に、定年後は実感を得られるような仕事に就けたら良いなとおぼろげながらに思っています。
インタビューを通じて筆者が感じたこと
「人からダイレクトに感謝されたり、社会でどう貢献できているのかが分かること」が、じぃの定年後の活動のポイントになりそうですが、逆に言うと本当にこれまでよく頑張ってこられたな、と胸が熱くなりました。きっと多くのサラリーマンが多かれ少なかれそういう思いをしてきていると思い、ますます応援したい想いが強まります。
「銀行システムの管理職」と肩書だけを聞くと、威張っているんじゃないかと想像されるかもしれません。
実際、私が自己紹介で「おじさん専門のライフキャリアコンサルタントをしている」と言うと、「おじさんはプライド高いから大変でしょう? 過去の肩書をひけらかすんでしょう?」などと言われることもあります。
でも、そんな方は私の周りにはいません。じぃは面白くて癒やし系です。そりゃ保育園児にもモテるだろうな、という気がします。
やはり人柄は大切で、良い人は誰もが応援したくなるもので、定年後の不安の1つである「孤独」も逃げていくと思います。
金澤 美冬
おじさん未来研究所 理事長/プロティアン株式会社 代表
株式会社YEデジタル 社外取締役