命をかけた“メガンテ”だけじゃない! 『ダイの大冒険』魂を揺さぶられたポップの感動シーン

『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』第2巻 [Blu-ray](エイベックス・ピクチャーズ)

『週刊少年ジャンプ』(集英社)の黄金期を支えた名作ファンタジー漫画『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏)。今年で連載開始35周年を迎える本作に登場する魔法使い・ポップは、ファンから“もうひとりの主人公”と呼ばれるほどの人気キャラだ。

情けない初期からの成長劇や「ここぞ」で活躍するカッコ良さもさることながら、作品そのものを象徴する名シーンの多さは、主人公・ダイにも劣らない。とくに竜騎将バランからダイを守るために命がけで“メガンテ”を使った展開は、今でもファンの間で語り草だ。

今回はポップが読者の魂を揺さぶった感動の名シーンを、筆者の好みもたっぷり加味して選んでみた。あなたの心に残っているあの瞬間を思い描きながら、ぜひ読んでいただきたい。

■「おれにとって… ダイはダイだっ!!!!」慰めない友情もある

ポップとダイの友情は本作に欠かせない要素だ。世界を救った勇者パーティはこの二人からはじまり、やがてお互いにとってなくてはならない存在になっていった。

ふたりの友情が色濃く描かれたのが、第219話「起てよ勇者!!!の巻」だ。大魔王バーンとの決戦に周囲が騒がしくなるなか、ダイだけは戦いを恐れていた。バーンに完敗したトラウマがどうしても忘れられず、勇者なのに勇気を持てない自分に嫌気が差したのだ。

自暴自棄の末、ついに仲間のもとから逃げ出したダイを立ち直らせたのが、ほかならぬポップである。

「勇者がなんだ!!? 竜の騎士がどうした!!?」
「おれにとって… ダイはダイだっ!!!!」

肩書ではなく、これまで一緒に戦ってきた親友を信じる。その気持ちを受け取ったダイは、再び勇者として立ち上がるのだ。

このシーンのポイントは、ポップがダイを必要以上に慰めないところだと思う。ダイの勇気を誰より知っているからこそ、あえて余計な言葉をかけなかった。ポップのダイへの信頼が心に染みる名場面ではないだろうか。

■偉大な師に力も心も追いついた「大魔道師とでもよんでくれっ!!!」

次に紹介したいのが、ハドラー親衛騎団・シグマとの戦いで見せつけたポップの進化だ。

極大消滅呪文“メドローア”以外の魔法が通用しない強敵を相手に、知略で立ち回るポップ。しかし、優位な立場でもいっさい慢心しないシグマの冷静さに追い詰められ、強力な“ライトニングバスター”を受けてしまう。“イオナズン”と同等の爆発を至近距離で叩きこまれたポップは倒れ、シグマも勝利を確信してその場を去ろうとする。

だが、戦いは終わっていなかった。致命傷を受けたはずのポップは回復呪文“ベホマ”でダメージを癒し、再び立ち上がる。回復呪文は魔法使いには使えないはず。「君は…まさかっ…賢者!!?」と動揺するシグマに、ポップはニヒルな笑みとともにこう言ってのけたのだ。

「おれを呼ぶなら大魔道師とでもよんでくれっ!!!」と。

大魔道師とは、ポップの師匠・マトリフの称号だ。あらゆる魔法を極めた偉大な魔法使いにして尊敬してやまない恩師に、とうとう追いついた。その自信を高らかに宣言するポップの姿はとてもカッコいい。

『ダイの大冒険』はヘタレなポップがカッコ良くなっていく成長ドラマが見どころのひとつだが、“大魔道師ポップ”はその到達点だ。読み返すたびに「こんなに立派になって……」と思ってしまうのは、筆者だけではないはず。

■「一瞬…!! だけど…閃光のように…!!!」大魔王バーンに人間として啖呵を切る

本作の最終盤である第334話「閃光のようにの巻」では、ダイのような竜の騎士でもバーンのような魔族でもない、人間であるポップだからこその名場面がある。

バーンが仕掛けた地上を滅ぼす大爆発を防ぐ術がないと悟ったダイは絶望し、力なく倒れこんでしまう。一方、ポップはバーンに立ち向かうことをやめない。
なぜ諦めないのか。バーンの疑問に、ポップは幼い頃に“死”が怖くなってしまったある日、母親に諭された思い出を語りだす。

「人間は誰でもいつかは死ぬ…」
「だから…みんな一生懸命生きるのよ」

魔族の頂点であるバーンや、竜の騎士と人間の混血児であるダイは、人間の何倍も何百倍も永く生きるかもしれない。彼らからすれば、人間の一生なんて短くちっぽけなものだろう。

しかし、そうだとしても、一瞬の花火みたいな人生を一生懸命に生きる。ゆえにポップは決して諦めず、高らかに叫ぶのだ。

「一瞬…!! だけど…閃光のように…!!!」
「よっく 目に刻んどけよッ!!! このバッカヤロ――ッ!!!!」

かつてバーンと戦ったときは、“おれたち ただの人間なんかがどうあがいたって勝てるわけがねぇ”と絶望した彼が、人間の生きざまを力強く宣言するのが熱い。直後にダイが立ち上がる展開も含め、最終決戦にふさわしい総決算たるシーンだ。

ポップの名シーンを見てきたが、彼の活躍はまだまだこんなものではない。人によっては「あのシーンが入ってないじゃないか!」と、憤慨している方もいるだろう。象徴する名場面が多すぎてなかなか語り尽くせない男……それがポップなのだ。

さて、『ダイの大冒険』には最終話後のストーリーを描く「魔界編」の構想があったというが、実現はしていない。もし令和の世に「魔界編」が登場したらどうなるだろうか? ひとつだけわかっているのは、ポップがまた読者の魂に響く名シーンを見せてくれることくらいだろう。

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