薬がない!3年余りに渡って続く“薬不足” 工場は24時間フル稼働・増築も…薬局の苦悩「選択肢が提案できない」

3年余りに渡って続く日本の薬不足。工場はフル稼働で増産するも、医療現場は薬の在庫確保に奔走している。薬価改定や円安など生産コストが膨らむ中、薬不足解消のため、製薬業界全体での連携が求められる。

治療薬が不足…薬局を“はしご”

「在庫がある問屋さんを一生懸命、回って集めたりしてますね」と窮状を話す山本ホームクリニック(福岡市西区)の山本希治院長。山本院長が取り出したのは、点滴の際に血液が固まって血管が詰まるのを防ぐために使う薬だ。治療に欠かせない、こうした重要な薬も入手困難な状況が続いている。

2020年に発覚した医薬品メーカーの品質不正問題に始まり、その後、世界中でまん延した新型コロナウイルスやインフルエンザの流行が重なった結果、かつてない薬の供給不足に陥っている日本。その数は、一般的によく処方される「せき止め」や痰(たん)を出しやすくする「去痰薬」など、国内で流通している医薬品、約3800品目に及ぶ。中には、様々な感染症の治療に使われる「抗生剤」も含まれている。

山本ホームクリニックの山本院長は「最低限の量で治るようにしたいが、どうしても菌をたたき切れないときは症状が再発、再燃してくることがある。結果的には治るまでに時間がかかるということになると、患者への負担は大きくなるかもしれない」と現状を危惧する。別の薬で代替すれば患者が支払う医療費が増えてしまうほか、治療に影響が出る恐れもあるのだ。

福岡市内にある調剤薬局でも、一般的によく処方される「せき止め」の薬が、以前は1000錠単位で入荷していたが、最近は少量ずつしか入ってきていないという。

さらに「抗生剤」は「もう全然入ってこない」と薬剤師の竹野将行さんが深刻な表情で訴える。治療のためには、“最も有効な”抗生剤を出すのがセオリーだが、“最も有効な”薬がないために第二の薬の選択を提案しなければならないのが現状だという。

しかし、その提案すら難しいと竹野さんは話す。薬の確保に努めてはいるが、確保できない場合は、県薬剤師会独自のネットワークを使い、近隣薬局から融通してもらうほか、ときには患者が薬を探して薬局を“はしご”することもあるというのだ。

「患者が安心安全に薬を使い、治療することがわれわれの一番の責務なので、そこだけはなるだけ応えられるように頑張る。ただ、どうしてもないものはないので、本当に申し訳ない」と語る竹野さんの憂いは深い。

「休日出勤・24時間稼働」で増産

ジェネリック(後発医薬品)メーカー大手、沢井製薬の第二九州工場。

沢井製薬では198品目を製造し、年間26億錠の生産が可能だ。

「今は交代勤務、あとは休日出勤、一部は24時間稼働している状況。スタッフに無理を言って製造してもらっている状態」と榎本裕二製造部長は話す。3年余りに渡って続く深刻な薬の供給不足を受け、工場をフル稼働させ増産体制をとっているという。

沢井製薬では、さらなる増産へ向け、現工場の隣に新たな生産ラインを建設。2024年7月には稼働する予定で、将来的には年間35億錠の生産能力を確保したい考えだ。

薬価改定、円安…業界全体で連携を

薬不足が叫ばれて3年余り。なぜいまだに解消しないのか。沢井製薬の木村元彦社長は薬不足の原因の1つを「沢井製薬で、まだ200品目以上赤字の品目がある。薬価改定で体力がそがれた中で、増産のために設備投資もできない。今の設備で何とか作ってこなしているという状況」と指摘している。

保健医療で使われる医薬品の価格、いわゆる「薬価」は国が定めていて、研究開発の費用がかからない後発品などは価格がより低く設定されていることから利益が出にくいのが実情だ。加えて薬の原材料のほとんどは海外に依存していて、昨今の円安などでコストはさらに膨らんでいる。

沢井製薬の木村社長は、一社の取り組みだけでは限界があるとして、業界全体で連携を取るなど解消に向けて動いていきたいとしている。

「生産の余力をどれだけもう1回、数年前の状態に戻すか。余力があればトラブルが起こってもまた解消できる。しっかりとリーダーシップをとって今の課題に積極的に取り組む」とコメントした。

私たちの命と健康に関わる医薬品不足。「いつでも安心して薬を受け取れる」日は戻ってくるのだろうか。

(テレビ西日本)

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