【浜通り産業新戦略】スピード感を持て(7月1日)

 政府は福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の新たな戦略の基本的な考え方をまとめ、同構想推進分科会の席で示した。生活者の暮らしの再建、地域の稼ぎを生み出す仕組みづくりを掲げ、官民連携による持続可能な地域を目指すとした。考え方の方向性に異論はないが、何より重要なのはスピード感だろう。

 政府が示した考え方は、これまで取り組んできた六つの重点分野を三つに分類した。六つのうち廃炉、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業は、地元の企業収益や住民の所得増につながるとして地方創生のモデルを目指す。ロボット・ドローンは新たに芽の出た分野として、他地域と広域連携して相乗効果を図る。医療、航空宇宙はノウハウのある大都市圏の事業者との協力体制構築やベンチャー企業の育成などを挙げた。

 基本的な考え方の段階のため抽象的な表現が多い。今後、政府は地元首長らの意見を聞いた上で骨子案をまとめ、2026(令和8)年度以降に取り組みを本格化させるという。被災地の課題が複雑化する中、これまでの戦略の見直しが必要となったための新たな戦略というのに、時間的余裕がありすぎはしないか。すぐに着手できる施策や事業は、前倒しで進めるような意気込みがほしい。

 復興に関わる建設業を除いた双葉郡8町村の2020年の域内総生産(GDP)は1241億円で、震災前の3割程度にとどまっている。各産業や生活環境の復興度合いも地域差が大きいのが現状だ。新たな戦略には、それぞれの地域の実情を踏まえたきめ細かさも求めたい。

 既に進出している企業へのケアは、もうひとつの視点として、ぜひ持ってほしい。これまで、累計で約400件を超える企業立地が実現している一方で、撤退する企業も出てきている。新たな企業誘致や広域連携の推進はもちろん重要だが、手探りの厳しい時期に被災地に足を踏み入れた企業には敬意を表したいし、被災地の産業拡大の中心的存在でいてもらいたい。

 2025年度までの第2期復興・創生期間後の復興予算は、必要性に対する強い説得力が不可欠となろう。被災地の持続的な成長に向けた正念場といえる。(安斎康史)

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