「能力的にも上。向こうでもできる」と山口蛍も太鼓判。ブンデス移籍噂の佐野海舟が強い意欲「攻撃で違いを見せないと」

首位のFC町田ゼルビアを追走する2位の鹿島アントラーズにとって、6月30日のヴィッセル神戸戦は是が非でも勝ちたい一戦だった。今回はエースの鈴木優磨が出場停止。チームの底力が問われる状況だった。

ドイツ1部マインツへの完全移籍が濃厚と報じられている佐野海舟も、「優勝争いするうえで非常に重要な試合」と位置づけ、大一番に挑んだはずだった。

開始早々の8分にチャブリッチが右CKからいち早く先制したこともあり、佐野自身の武器であるボール奪取力に磨きがかかった。序盤の15分間だけで神戸の攻撃の芽を積むインターセプトを4回、5回と披露。鋭い反応は圧巻だった。

「前半の最初は前の選手が良い形で追い込んでくれたので、自分のところでうまく奪えているシーンが多かったと思います」と本人も語ったが、卓越した戦術眼とボール回収力は目を見張るものがあった。

しかしながら、18分に武藤嘉紀に同点弾を浴びた後は、チーム全体が後手に回り始める。「チーム全体が間延びして、自分のところからなかなか誘導できず、奪う回数も減ってしまった。もうちょっとチームをコンパクトにして、守備の方向性を試合中に改善できれば良かったと思います」と佐野も反省の弁を口にした。

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鈴木というライン間で起点を作れるキーマンが不在ということで、今回は佐野と知念慶の両ボランチがよりゲームを落ち着かせ、全体を動かしていく必要があったのだが、それができない。ゲームマネジメントと有効な攻めをお膳立てするパス出しの部分は、やはり佐野の課題と言っていい。

そこに関しては、2023年に町田から鹿島へ赴いてからずっと取り組んでいる部分だが、こういった大一番になると難しさに直面する。本人も力不足を再認識したはずだ。

「同点だったんで、焦ることはなかったなと思いますけど、ここ最近は失点して焦りが出てくる試合も多い。1点取られた後の修正は今後の課題ですし、自分自身の統率力や発信力も足りないところが出てしまったのかな」と悔しさをにじませた。

結局、鹿島は38分にリスタートからマテウス・トゥーレルに決められて失点。逆転を許すと、後半に入って大迫勇也に3点目を献上。1-3で完敗を喫し、町田との勝点差が5に広がる結末を余儀なくされた。佐野自身も鹿島最後になるかもしれない一大決戦を落としたことに悔恨の念を抱いただろう。

試合後、去就に関する明言は避けたものの、より大きく成長したいという思いは誰よりも強いはず。今回の神戸戦でやるべきことがさらに明確になったのではないか。

「今季の自分は最初、コンディションが上がらず、自分の思うようなプレーができていない試合が多かった。チームのバランスと自分のプレーを探すのにちょっと時間がかかってしまったのは確かです。

でもここ最近は、自分の良さとチームのバランスを整えることができる試合も増えてきた。それを継続していきながら、攻撃の部分で違いを見せることができないと、やっぱり上のレベルにはいけない。それを強く感じました」と、彼は改めて攻撃面やゲームコントロール力の改善への強い意欲を示したのだ。

神戸戦の終盤のように、ランコ・ポポヴィッチ監督からは状況に応じて最終ラインで使われることもあったが、異なる環境へ赴けば、似たようなことも起こり得る。SBやアンカー、攻撃的MFなど不慣れなポジションで起用される可能性もゼロではないだろう。それも覚悟のうえで、本人はボランチとして高みを目ざす覚悟を持っている様子だ。

そんな佐野に、かつて自身もドイツ1部のハノーファーに挑戦したことのある神戸の山口蛍はエールを送った。

「僕が23歳の時と、今、23歳の彼では、彼の方が能力的にも上だと思うし、持ってるものも全然違う。やっぱり彼はボールを取る能力、運ぶ能力もすごく高いし、向こう(欧州)でもできるとは思います。彼には早く行って活躍してもらって、日本代表の中心になってもらいたいとは思います」

“似たタイプ”とも言える先輩ボランチから背中を押された佐野はこの先、どのようなキャリアを歩んでいくのか。そこは非常に興味深いところだ。そして鹿島も、佐野離脱を視野に入れつつボランチの再編を模索する必要がある。佐野と鹿島、両者ともに大きな岐路に立たされているのは間違いない。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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