周辺では頻繁に動物の死骸が…犬3匹殺害容疑の81歳元ブリーダー 地元住民が語る“繁殖施設”の「劣悪な環境」

(写真:共同通信)

「逮捕当時、施設には180頭ほどの犬がいて、そのうち20頭はすっかり衰弱した状態だったようです」(全国紙記者)

埼玉県警は6月27日、繁殖のために飼育していた犬を殺害したとして、元ブリーダーの渡部幸雄容疑者(81)を動物愛護法違反(殺傷)の疑いで逮捕した。

県警の発表によると、渡部容疑者は今年5月、埼玉県毛呂山町にある動物の繁殖施設で、ポメラニアンなど小型犬3頭を密封したケージに入れ、窒息させて殺した疑いがもたれている。

調べに対し渡部容疑者は、「1匹は殺したが、2匹はすでに死んでいた」と供述、容疑を一部否認しているという。

繁殖施設の名称は「ハイビーペット」。渡部容疑者の親族名義で17年に第1種動物取扱業として届けが出されている。’22~’23年に計約3千600万円を売り上げるいっぽう、12回にわたって保健所の立ち入り調査を受け、飼育環境を改善するよう指導されていた。

「小型犬は室内でも飼いやすいため、都心部での需要も高いです。特に近年はミックス犬の人気が高く、卸値も高騰しています。ビジネスになるからと安易に繁殖に乗り出すブリーダーも少なくありません。飼育に手が行き届かなくなり、劣悪な環境で苦しい思いを強いられる動物が後を絶たないのです」(ペット業界関係者)

渡部容疑者は、「繁殖に使えなくなった犬を生かすと経費がかかる」と、非情な供述もしている。動物たちの命を奪った元ブリーダーとは、いったいどんな人物だったのか。

渡部容疑者は17年からペット販売を始めたと報じられているが、取材を進めていくと、それより前からペットビジネスを手掛けていることが明らかになった。渡部容疑者の知人が語る。

「以前は毛呂山町の中心部に4階建てのビルがあって、渡部容疑者はそこの1階でペットショップを経営していました。

もともと建設業に携わっていたのですが、90年代のペットブームのころにペットショップを始めたようです。けっして動物が好きというわけではなく、商売になるからという理由で参入したのでしょう。そこですでにブリーダーもやっていたみたいですよ」

その後、ビルの周辺の土地が再開発されることになり、渡部容疑者は店を閉めたという。動物の飼育を続けるために新たに選んだ場所が、冒頭の“事件現場”だ。

登記簿を確認すると、渡部容疑者は繁殖施設のある土地を04年に購入している。本誌記者はこの施設周辺を取材した。

■近隣住民は容疑者に「ずっと迷惑していた」

水田が広がる農地の一角に、青いトタンで囲まれた建物が二棟連なっている。「立入禁止」の札が掲げられた外観からは、動物を飼育する施設とは判別できない。だが、近づくと中から複数の犬の鳴き声が聞こえてきた。

「この建物の前を通ると、犬のか細い鳴き声がよく聞こえるんです。きっと十分なエサをもらえていないのでしょうね。以前は2棟のうちの小さいほうから、猫の鳴き声も聞こえていました」(近所の住人)

渡部容疑者は常に近寄りがたい雰囲気だったそうだ。

「経営者のほかに3~4人のスタッフが出入りしていたようです。あいさつをするでもなく、近所では、犬をたくさん飼っている人たちという見方をしていました」(前出・近所の住人)

施設が立っている土地は、もとは農業用地だったという。

「きちんと下水の整備がされていない建物だから、動物の糞尿は農業用の水路に垂れ流し。地元ではみんな迷惑していて、ずっと前からやめさせるよう役場にも申し入れをしていたんです」(農家の男性)

こうした近隣住民とのトラブルも絶えなかったようだ。この男性が続ける。

「ようやく摘発されてよかったというのが本音です。被害に遭った動物も、実際は3頭どころの話ではないですから……」

施設周辺では、動物の死骸が頻繁に目撃されていたというのだ。

「草むらに平気で遺棄していたようで、その数は数百頭にのぼるのではないでしょうか。動物たちがかわいそうでなりません」(前出・農家の男性)

20年におよんだ“暴虐”の日々。県警は、動物虐待の疑いもあると見て、渡部容疑者の調べを進めている。

© 株式会社光文社