目黒蓮は感情を“目の動き”に込める俳優だ 『海のはじまり』で泉谷星奈に向ける愛の眼差し

波の音に包まれ、浜辺で父娘が楽しげに遊んでいる。7月1日より放送が開始されるフジテレビ系新月9ドラマ『海のはじまり』のティザー映像では、家族の幸せな雰囲気が漂っているが、同時に父の心に立つさざ波も感じずにはいられない。

目黒蓮を主演に迎え、『silent』(フジテレビ系)チームが再びタッグを組むということもあって放送前から期待が高まっている本作。恋人・弥生(有村架純)と平凡な日々を送っていた会社員の夏(目黒蓮)の元に、学生時代に交際していた水季(古川琴音)の訃報が届き、葬儀に参加するため実家に帰ることに。葬儀場で海(泉谷星奈)という女の子と出会った夏は、水季の母親から海が夏の娘だと聞かされる。

元恋人の死によって、突然自分に娘がいることを知った夏。自分に隠して娘を生み、今まで育ててきた水季にも思いを馳せながらも、揺れる心境や覚悟がティザー映像に滲み出ているように感じる。

本作で初めて父親役を演じる目黒。そのうえ、単純な言葉では表現できないような複雑な心の葛藤も表現しなければならない。一方で、初めての父親役だからこそ、自分が父親になったことにまだ慣れていない初々しさや、父になろうとする人間の決意を体現できるのではないだろうか。『silent』でも徐々に聴力を失っていく病に葛藤する難しい役柄を繊細に演じ切ったが、本作では自身の内面を表現するだけでなく、子どもとの対峙も重要になってくるため、また違った繊細さが求められる。

今までの目黒の出演作を振り返ってみると、『わたしの幸せな結婚』では愛する人への不器用だが真っ直ぐな愛を体現していた。目黒は愛する人を見る時、どんな役柄であっても、穏やかで優しさ溢れる表情を見せる。普段の表情とは大きく変わらないが、愛情がしっかりと伝わる細かな目の動き。それはまさに恋人だけでなく、愛する子どもと向き合う際にも生まれる眼差しだ。

また『月の満ち欠け』で演じた三角哲彦の、1人残された人間としての喪失感や葛藤、愛した女性の知られざる一面を受け入れようとする姿も、夏と重なるのではないだろうか。インタビューにおいて目黒は、「20歳ぐらいのときの自分にすごく似てるなと思いました」「性格や考え方、それと台本を読んでいてなんとなくイメージする人物像みたいなところにも共感できました」とコメントしており(※1)、『月の満ち欠け』で演じた三角は“目黒蓮そのもの”に近かったと言える。『海のはじまり』についても「自然と共感できる役柄」と話している目黒(※2)。1兆ドルを稼ぐことを目指す無鉄砲な役柄で新たな一面を見せた『トリリオンゲーム』(TBS系)や、パイロット候補生を演じ、難しい用語も完璧にこなした『舞いあがれ!』(NHK総合)などのような新境地の開拓というよりは、彼自身が持つ落ち着いた雰囲気や温かみのある空気感を活かしつつ、さらに飛躍した演技力が期待できる。

娘の海を演じるのは、本作と同じく生方美久脚本の『いちばんすきな花』(フジテレビ系)や『厨房のありす』(日本テレビ系)でメインキャラクターの幼少期を演じた泉谷星奈。100人越えのオーディションを受け、満場一致でこの役を勝ち取った実力者だ。まだたった7歳の彼女は、夏の複雑に入り混じる感情をどのように受け止め、どのように自身の内面を表現するのか。徐々に家族として受け入れあい、親子の絆を深める2人のケミストリーにも注目したい。

夏について、ドラマ公式サイトには「めんどくさいことや、頭を使うことなどを避けるようにして生きてきた部分もあり、特に大きな挫折を経験したこともなく生きてきました」とあるように、彼はごく平凡な28歳だ。そんな夏が、予想もしなかった大きな転機を経て、どのように成長していくのか。変化し続ける目黒蓮の表現力も楽しみにこれからの放送を待ちたい。

参照
※1. https://realsound.jp/movie/2022/12/post-1200453.html
※2. https://www.fujitv.co.jp/uminohajimari/introduction/
(文=伊藤万弥乃)

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