県庁内のコワーキングスペース 官民一体の「つながる場」には「ハードル高い」との声も 起業家ら新産業創出へ「セミナーや懇親会」に留まらぬ、明確な戦略と支援に期待

 鹿児島県庁18階のコワーキングスペース「かごゆいテラス」で27日、オーストラリアへの販路拡大に関するセミナーが県の主催で開かれた。現地で日本製品の流通を手がける企業が市場の特徴や動向を説明、県内の食品加工業者ら約20人が熱心に耳を傾けた。

 かごゆいテラスは、異業種交流による新産業創出を目的に県が2022年4月開設。セミナーや報告会、県産食材を使った飲食物の販売などで活用され、事業者やNPO、学生らがつながる場になっている。

 21年に起業し県産農産物などの通販サイトを運営するオービジョン(鹿児島市)の大薗順士社長(41)は「県内外の企業と交流の場があるのはありがたい。多くの縁が生まれた」と話す。かごゆいテラスをきっかけに製茶会社との取引が始まった。「セミナーや懇親会で終了ではなくチームで商品開発し販売するなど、具体的な形になる仕掛けもほしい」と今後に期待する。

 県新産業創出室によると、24年5月末までにかごゆいテラスの有料スペースを5210人が利用した。最新技術を食品の開発・販路開拓に生かすセミナーなど講座やイベントは167件に上る。起業家精神の育成として、学生が取り組んだ実証実験の成果を発表したり、企業と協力して考案した事業計画の報告会を開いたりして機運醸成を図っている。

 役所内のコワーキングスペースは珍しく、官民一体で取り組むという姿勢の表れともいえる。ただ、気軽に参加しづらいとの声もある。23年に大学を休学し開業した同市の花屋「お花のあるくらし」の衛藤潤弥代表(23)は、県主催の起業家向け講座はハードルが高いと感じた。「初心者に目を向けた、同じぐらいの知識の人が集まる講座があれば参加したかった」と明かす。

 「スタートアップ支援では、県としての戦略や方向性を明確に打ち出すことが、企業への求心力になる」とするのは、ペット関連ITサービスを手がける「Buddycare」(バディケア、同市)の原田和寿代表(42)。県が賞金を出すビジネスプランコンテストなどは、戦略に沿った審査基準にすることで「県がどういった企業を育てたいのかというメッセージになる」と話す。

 県の事業がきっかけで、犬の健康管理アプリの活用で県内の4自治体と連携することができた。「県からの紹介がなければスムーズに進まなかった。スタートアップに対する取り組みは熱心だと思う」と県の新産業創出の取り組みを評価しつつ、県外や国外から金を引っ張ってこられる企業を育てないと「県内で循環しているだけになる」。行政だけでなく民間企業を巻き込みながら選択的に投資する必要性を挙げ、「トップダウンで引っ張るリーダーを選びたい」と力を込めた。

オーストラリアへの販路拡大セミナーが開かれたかごゆいテラス。企業間交流の場になっている=27日、鹿児島県庁

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