『THE MOON』 度肝を抜く「月の裏」からの救出劇! EXO ド・ギョンスが宇宙飛行士役【おとなの映画ガイド】

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月面探査ロケットの事故でたった独り生き残った新人クルーが“月の裏側”から地球へ帰還すべくサバイバルを繰り広げる韓国のSFサスペンス、『THE MOON』が7月5日(金) に全国公開される。韓国で2700万人を超える動員数を記録した『神と共に』シリーズのキム・ヨンファ監督による超大作。昨年来、中国の宇宙SFが評判だけれど、いやいや韓国もすごい。その臨場感にはウナるばかり。押し寄せるトラブルの連続と熱い人間ドラマも加わってしまうから、退屈する暇などありません。

『THE MOON』

日本では報道される機会があまりないので、韓国と宇宙開発は結びつきづらいが、韓国は2022年、独自開発した初の国産ロケットの打ち上げに成功、NASAが中心になる月探査国際プロジェクト「アルテミス計画」にも参加が決まっているし、航空宇宙産業を発展させて宇宙強国になることを目指しているという。この映画にはそんな韓国国内の宇宙への夢と熱い思いも詰まっている。

舞台となるのは、2029年。韓国は、1969年に成功したアメリカのアポロ11号に次ぐ、世界2番目の月面着陸をめざし、3人のクルーを乗せたロケット「ウリ号」を無事打ち上げた。

ところが月周回軌道に進入する直前、「ウリ号」に通信トラブルが発生。その修理中に事故が起こりふたりのクルーが命をおとしてしまう。残されたのは最も若い、新人のソヌ(ド・ギョンス)。彼は、仲間の遺志を継ぐことを決意し、単独で月面着陸に挑む……。

さまざまなジャンルで傑作をうみだす韓国映画界だが、ここまでの宇宙SF超大作はそうはない。仕掛けたのは『神と共に』でぶっとんだ「地獄」を作りだし、特撮映画の金字塔を打ち立てたヒットメーカー、キム・ヨンファ監督。その前の作品は、ゴリラがプロ野球チームに加わるという『ミスターGO!』。ありえない世界をSFXを駆使してつくりだす、エンタテインメントとしての映画の面白さをこころえた監督だ。

この作品も、まず、テンポがいい。

導入からアクシデントの連続。危機が次々押し寄せ、考えている暇を与えない。

ふたりのクルーの事故、単独での月面着陸、成功にわく韓国国内。だが、問題は、さて、ここからどう地球に帰るか──。

ドラマにリアリティをもたらすSFXも素晴らしい。

制作費280億ウォン(約32億円)のうち61億ウォンを視覚効果に割いているというが、これが実に効果的。そのクオリティには目を見張る。

ロケット内部のLEDパネルや電子スイッチなどは、実際にNASAで使用されている部品や素材を活用して制作、実物に近い宇宙船のセットを作り上げた。宇宙服もNASA製を入手、解体・分析して用意した。地上の管制塔、ナロ宇宙センターのスタッフがリアルタイムで確認する数十個のモニターには、実際に最高の解像度でデザインされたモーショングラフィックを表示させるなど、細かいディテールにこだわっている。

案外、そういうセットの部分がチャチかったり、セコかったりすると、いきなり現実に引き戻されてしまうが、この映画にそれは感じない。

特に新味としては、ドローンの活躍が目立つ。これまでの宇宙SFではロボットが多く出てきたが、本作はドローンがなにか感情すらもったような愛すべきキャラクターになっている。

たしかに現実世界では、戦争もドローンが中心的な存在になっている。宇宙開発を描くとき、いまや欠かせない存在なのだな、と痛感させられる。ドローンの視線で映像が展開すれば、俯瞰ショットなんてとても自然にみえて、リアリティも増すだろう。

そしてやはり、生身の俳優たちの演技があってこそ。

実は5年前、ロケット打ち上げ事故が起きている。その当時のプロジェクト責任者で、いまは山奥の天文台で働くキム・ジェグクが、ソヌを危機から救うために急きょ呼びだされることになる。彼こそ、ドラマの中心になる重要人物だ。韓国を代表する名優ソル・ギョングが熱演している。

NASA(アメリカ航空宇宙局)の統括ディレクター、ユン・ムニョンも活躍する。ジェグクとは縁浅からぬ韓国系の女性だ。彼女の動きは後半のキーとなっている。演じているのはキム・ヒエ。このひともドラマ『夫婦の世界』などヒット作に数々出演する名優。

若い宇宙飛行士ソヌを演じているのは、ボーイズグループEXOのメインボーカル、ド・ギョンス。キム・ヨンファ監督作品には『神と共に』に続く出演となる。台湾映画『言えない秘密』の日本版が京本大我の主演で6月28日に公開されたが、韓国版はド・ギョンスが主役を射止めている。

この3人には、実は、つながりがあり……。さまざまな伏線が用意され、きちんと回収されるのは定石通り。

1969年のアメリカ月面着陸をテーマにしたハリウッド大作『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』も登場するこの夏。まずは、韓国映画らしい仕立ての、月を舞台にしたSF大作が先陣をきる。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

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夏目深雪さん(著述・編集業)
「……韓国映画のいいところを詰め込んだ見応えのある作品……」

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