【今週のサンモニ】番組の見解を全否定してしまう孫正義|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

バイデンでは大統領選に勝てない

2024年6月30日の『サンデーモーニング』には、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏が番組に初登場しました。

先日の加藤登紀子氏といい、大物をゲストに起用して番組に喝を入れようとしているのでしょうか。いつもの画一的メンバーに比べると非常に好感が持てます(笑)。とっておきの上野千鶴子氏が登場する日も遠くない予感がします。

トップニュースは米国の大統領選のテレビ討論会でした。

アナウンサー:81歳のバイデン大統領と78歳のトランプ氏が争う米国大統領選挙。木曜日初めてのテレビ討論が行われましたが、バイデン大統領にとっては厳しい結果となったようです。テレビ討論の後、ニューヨークタイムスが掲げた社説。「国のためバイデン氏は大統領選から撤退すべき」…討論会であまりに精彩を欠いたことをうけ、大統領選からの撤退を求めたのです。(中略)

満を持して臨んだテレビ討論会で、声のカスレや言葉が出てこないことなど、衰えが浮き彫りになった81歳のバイデン大統領。(中略)高齢の不安が勝負所で露呈したバイデン氏、撤退論も噴出するなか、巻き返すことはできるのでしょうか。

これまでトランプ氏を出演者全員でヘイトしてきたとしか思えない『サンデーモーニング』ですが、さすがにバイデン氏では大統領選に勝てないと確信したようです。

制作VTRでもバイデン氏が高齢であることを繰り返し指摘しました。確かにバイデン氏は高齢ですが、政治家の価値については一義的には政策で判断する必要があります。高齢だからと言って、本質を見ない差別は禁物です。

なにしろ『サンデーモーニング』だって、関口宏氏を起用し続けてきたではないですか(笑)。

トランプが「民主主義を破壊する」のか?

スタジオトークでは最初に目加田説子氏がコメントします。

目加田説子氏:指摘の通り、バイデン氏は弱々しかったり、言葉に詰まったりする場面があって、今後4年間託してよいのだろうかと不安になる有権者がいたと思う。一方でトランプ氏の虚偽発言とか、相手を汚い言葉で罵るような態度とかいうものが、もう一度託してよいのかということも不安に感じる有権者が多かっただろう。結果として、ダブル・ヘイターズが増えてしまった。(中略)。来年からトランプ氏になるのはどう考えても民主主義を破壊して行くような側面から判断しても相応しくないと思う。

そもそも民主党は、党内の健全な分裂を起こすことなく、高齢に不安があることを当初から認識してバイデン氏を指名したのであり、その責任は民主党と民主党支持者自身にあります。今更文句を言うのは無責任です。政策ベースではなく、戦略ベースで考えた場合、党内中道の若手を指名すれば、高確率でトランプ氏に勝利したはずです。

さて、目加田氏の「どう考えても民主主義を破壊するのでトランプ氏は相応しくない」という主張は、テレビ報道に相応しくありません。

まず、トランプ氏が公正な選挙によって大統領になるとすれば、それは【民主主義 democracy】によるものです。民主主義とは政治的支配体制の一つであり、被治者である国民が治者となる国民の代表を公正な選挙によって指名するものです。

一方、トランプ氏の政治的イデオロギーは、政治的社会権および経済的社会権を得るために政治的自由権および経済的自由権を制限する【ポピュリズム populism】あるいは【全体主義 totalitarianism】と呼ばれるものです。

目加田氏は、この政治的イデオロギーと政治的支配体制を混同しています。選挙が公正である限り、ポピュリズム政治も全体主義政治も民主主義政権下で行われます。公正な選挙で大統領に指名されたトランプ氏が「どう考えても民主主義を破壊する」というのは不合理です。

当然のことながら、このことを根拠としてトランプ氏を大統領に「相応しくない」とするのも不合理です。そもそも、特定の政治的価値観を視聴者に強要するようなテレビ報道は放送法違反です。

さて、ここで孫正義氏の登場です。

印象で大統領を品定め

膳場貴子氏:孫さんは、トランプ大統領ともバイデン大統領とも会ったことがあるということで、この選挙戦をどういう目で見ていますか。

孫正義氏:大変ですよね。声が枯れるって僕も声が枯れていますけど。二人とも直接会っていろいろ話をすると、凄く頭が聡明ですし、世界に影響を与える選挙ですから頑張って欲しい。どちらも本当に素晴らしいいろいろな考えを持っていますし、どうなるんでしょうね。僕もドキドキして見ています。

膳場貴子氏:傍から見ていると、トランプ大統領はそれこそ民主主義を壊すのではないかと思うような発言があったり、バイデン氏の弱々しさを感じるんですけど、それは直接対面してみるとどんな印象ですか。

孫正義氏:あれは、ややトランプ大統領のスタイルですね。わーっと追い込んで最後は落し所をそれなりに見つけてというビジネス的な交渉のスタイルみたいなのは若い時からですからね。でもそれぞれが重要な異なった視点を持ってますから、僕も専門家ではないのですが、非常に重要な選挙だと思う。タイミング的にもね。

膳場貴子氏:バイデン氏の弱々しさは実際に会うとどうでしたか。

孫正義氏:やっぱりしっかりしていましたよ。実際に目の前で相当長い時間スピーチもしましたけど、あの日は元気でしたけど、逆にビックリしました。

孫正義氏は、実際の二人を知る立場から、『サンデーモーニング』が制作したVTRや目加田説子氏の見解を、残酷なまでにことごとく全否定しました(笑)。『サンデーモーニング』が、それらしい一方的な見方を視聴者に与えているだけであることがわかります。

松原耕二氏:ゴアvsブッシュという戦いがあって、ゴア副大統領が、あまりにもブッシュ氏の言っていることが「下らねーこと言っているな」みたいな顔で溜息を何回もついて、その音を拾われてしまって、「そんな男だ」と結局負けちゃうわけです。いかに映像の力と言うか、怖さと言うか。

今回トランプ氏がルールを意外にも守った。だからなんかプレジデンシャルというか、大統領っぽく見えてしまう。逆にバイデン氏は3月の一般教書演説では物凄く力強くて、民主党も「大丈夫じゃないか」って感じだった。ところが今回は民主党的には最悪の結果と言うか、残酷なまでに年齢の限界を感じさせてしまった。

結局米国も、政策とは無関係な下らないところばかりに着目して、印象で大統領を品定めしていることがわかります(笑)。『サンデーモーニング』と同レベルでは、世界もよくならないはずです。

孫正義の大演説

円安の話題をめぐっては次のようなスタジオトークが展開されました。

膳場貴子氏:なんでこの30年間、この国内から新しい産業が世界に向けて生まれてこなかったんでしょうか。

孫正義氏:日本でバブルがはじけました。それで羹(あつもの)に懲りて、保守的(リスクオフ)な経営が日本の主流になった。インターネットだとかが出てきた時に「これはまがい物だ」と言い過ぎた。「若い者は何を言っているんだ」みたいな感じで叩いて、昔の重厚長大の大経営者とかメディアも含めて、新しいものを低く見過ぎた。それで若者は萎縮しちゃった。大企業も半導体の設備投資を萎縮した。これが構造問題だ。もう1回立ち直すためには、最先端の技術を真正面から取り組まなければいけない。

インターネット社会を敵視すると同時に、新しい技術の出現を「軍事転用される」などと危険視してきた『サンデーモーニング』はまさにその典型ですね(笑)。

AIをめぐる企業の取り組みについての話題では、孫正義氏の独壇場であり、長尺で力強く話し続けました。冗長なので重要部分を要約すると次の通りです。

孫正義氏:なんで急にAIが、特にこの1年間進化したかと言うと、4年間で能力が1000倍になったんです。ただ凄いのはここから4年間でもう1回1000倍になるんです。もっと凄いのはそこから4年間でもう1回1000倍になるんです。コンピュータの英知は10億倍(=1000×1000×1000)になるんです。10億倍ですよ。どうするんですか。「AIなんてなぁ。人間を超えるわけないだろう」と。

人間が造ったものを学習するのではなく、AIが勝手に自ら学習している。まったく世界が変わる。失われた30年をにほんがもう1回繰り返したくないのであれば、目をバ~~~~ンと開かなければダメです。知識人が上から目線でナンチャッテで言うんです。知ったかぶりで。「あんた専門家か」と言いたい。専門家でもないのに知ったかぶりして上から非難するんじゃない。

もっと心を開いて素直に真正面から進化に対して純粋に取り組まないと日本はヤバいっすよ。

かなり興奮して説教まで始めちゃった孫正義氏ですが(笑)、あまりにも発言が長かったためCMのタイミングが遅れてしまったようです。

内容の検証は必要であるものの、『サンデーモーニング』としてはかなり稀な、力強い大演説でした。

何より、専門家でもないのに知ったかぶる『サンデーモーニング』のコメンテーターの皆さんに聞かせてあげたい内容でした(笑)。もっと心を開いて素直に真正面から進化に対して純粋に取り組まないと『サンデーモーニング』の出演者の皆さんはヤバいと思います。

おそらくAIの能力が10億倍になったら、出演者もAIに取って代わられることでしょう。寺島実郎氏の冗長で難解なコメントや青木理氏の反日でひねくれたコメントも見事に完コピして生成してくれるはずです。

まぁ、わざわざ生成する必要もないかとは思いますが(笑)。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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