【ボート】帰ってきた前田紗希が因縁の住之江でアクシデントを乗り越えた

 大事故を乗り越え笑顔いっぱいの前田紗希

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 逆境を乗り越え、ボート界の元気娘・前田紗希(31)=埼玉・115期・A2=が、約1年ぶりに住之江ボートへ帰ってきた。

 ピットではいつでも笑顔を振りまき、慈善活動にも積極的に参加。持ち前の陽気なキャラクターは誰からも人気を集める存在だが、そんな彼女に2023年7月、住之江ボートで選手生命を左右する大アクシデントが襲った。

 モーターボートレディスカップの2日目4R、前田は1周1Mでターンマークや後続艇に接触するなど大事故に遭い戦線離脱。救急車で病院のICU(集中治療室)へ緊急搬送された。鼻骨や右眼窩(がんか)の骨折のため外科手術を受け、10日間入院。リハビリを含め、身体に大きなダメージを負ってしまった。

 「あれは本当に重傷でした。ヤバかったですね」と入院当初は深刻な状態で「人間ってあれだけ痛みがひどいと“痛い”しか言えない。平常心がなくなるから、痛いっ、て言って痛さを緩和させるのが分かります」と壮絶な体験を振り返った。

 普段は陽気な前田でも、さすがに落ち込む事態となってしまったが、いつまでも下を向いてはいられない。この事故を教訓に「初心に戻って無事故でケガをしないように帰ろう、舟にぶつからないようにしよう、と思っていると気持ちが楽になった。逆にいいパフォーマンスができちゃいましたね」と自然体のスタイルに好感触。3カ月の欠場を経て、10月の復帰初戦・平和島でいきなり優出を果たすなど、復活へ快進撃が始まった。

 壮絶な事故から約1年の月日を経て、住之江で6月19日から再びモーターボートレディスカップに参戦。自然体のレースで臨んだ先には、最高の結末が待っていた。

 前節の優勝エンジンを引き当て、初日から6戦4勝の活躍で予選を首位通過。4日目12Rの一般戦で再び転覆して、周囲をヒヤリとさせる場面はあったが準優勝戦、そして優勝戦をイン速攻でライバルたちを一蹴。なんと2022年5月の江戸川以来、通算2回目の優勝を因縁の地で勝ち取ったのだ。

 災い転じて福と成す-。どん底の病床からはい上がり、表彰台で「いったんは引退を考えたけど、優勝してここに来られて良かった」と歓喜の笑顔を取り戻したサクセスストーリー。彼女には悲劇よりも、ハッピーエンドがよく似合う。(関西ボート担当・保田叔久)

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