『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2で切り開いた新たな道 ライアン・コンダルが語る

6月17日より全米放送時間と同時に日本でもU-NEXTで配信がスタートしたHBOオリジナルドラマシリーズ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2。人気シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』で描かれた世界の約200年前、原作者ジョージ・R・R・マーティンによる“歴史書”『炎と血』を基に、絶大な権力を誇るドラゴン使いのターガリエン家の覇権争いの歴史が描かれる。シーズン2では、七王国の先代王ヴィセーリス(パディ・コンシダイン)の後継を巡り、ターガリエン家は王女レイニラ(エマ・ダーシー)率いる“黒装派”と、王妃アリセント(オリヴィア・クック)率いる“翠装派”にそれぞれ分かれ、血で血を洗う激しい内戦が勃発する。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、シーズン2の配信開始前に早々とシーズン3の製作が決定し、『ゲーム・オブ・スローンズ』ユニバースにおいては、2作目の前日譚となる『Knight of the Seven Kingdoms(原題)』の製作も発表された。ジョージ・R・R・マーティンが著した原作『ダンクとエッグの物語』を下敷きに、サー・ダンカン・ザ・トールと後にエイゴン・ターガリエン5世として王位に就く従者エッグの物語を描く。また、原作者ジョージ・R・R・マーティンはさらなるスピンオフ作品の企画も仄めかしており、界隈はかなり賑やかだ。

リアルサウンド映画部では、3週に渡りインタビューをお届け。第3回は、シーズン1で共同ショーランナーを務めていたミゲル・サポチニクが降板したのち、ソロでシリーズを牽引したライアン・コンダル。

――シーズン1とシーズン2において、最も変化したのはどんなところでしょうか?

ライアン・コンダル(以下、コンダル):それは物語の構成ですね。シーズン1のほうがかなり難しかったと思います。というのも、子供時代のレイニラとアリセントが大人へと成長するだけでなく、彼女たちが子供を産み、その子供たちが物語の冒頭の年齢に成長しているこの時代まで、20年の歴史を網羅しなければならなかったからです。そのため、各エピソードがそれぞれ独立したタイムラインとストーリーを持つような形で作らなければなりませんでした。一方、シーズン2では、ルケアリーズ(ルーク)・ヴェラリオンの死で導火線に火がつき、『ゲーム・オブ・スローンズ』の伝統的なシーズンとでも言うべき、リアルタイムで物語が進行するシーズンに移行します。シーズン1とシーズン2で最も異なる体験ができるのはこの点だと思いますが、楽しんでもらえることを願っています。登場人物をスムーズに紹介し、彼らの希望や夢、弱点や強みを知ってもらうために労力を費やしたので、我々らしいスタートの道を切り開くことができたと思います。

――ウェスタロスの歴史を紐解く原作をもとに、ドラマシリーズではどんなオリジナリティを追求されているのでしょうか。

コンダル:シーズン1をご覧になっていたら、そしてシーズン2をもう観ていただいているとしたら、「これが私たちのビジョンである」と言えるものになっていると思います。私はジョージ(・R・R・マーティン)の大ファンで、『氷と炎の歌』も愛読していました。25年ほど前にあの本と出会ってからというもの、私の人生の大きな部分を占めています。そして、ジョージの著書は、脚本家を目指していた当時の私に大きな影響を与えました。だからずっと心に残り続けているのです。ですが、私がこのシリーズに取り組む際は、とてもシンプルです。周りの雑音や、史上最大のテレビシリーズをどう作るのかといったことを気にするのではなく、ただ一人のファンとして自分が観たいと思うシリーズを作りたかったんです。そして、意思決定の過程で悩んだり、「どうしたらいいんだろう?」「どんな道を歩むべきか?」と迷いが生じた時も、私はただ、1ファンとして何を観たいのか、私と同じようにこの世界を愛する者にとって何が一番面白いのか、ということに立ち返るようにしています。

――このシーズンの方向性をどのように位置付けていらっしゃいますか?

コンダル:このシリーズは、ひとつの家族の解体を探るものです。ここには、レイニラ側とアリセント側とが入り混じった、複雑な家族が登場します。シリーズを追っていると、家族を愛するヴィセーリス王が置かれた悲劇に気づかれるでしょう。彼は非常に複雑な王、そして父親であり、生涯において正しい選択をすることができませんでした。そして、彼は知らず知らずのうちに、この恐ろしい内戦の種をまいてしまったのです。視聴者のみなさんは、この偉大なターガリアン家と王朝の没落を見ているのです。そして、これは核兵器のメタファーになっているとお気付きでしょう。大量破壊兵器のようなドラゴンがどちらの側にもいるわけですから。つまり、私たちが追っているのは、核戦争という外的なメタファーなのです。そして、内面的で個人的なコンフリクトは、この家族が内部から引き裂かれるのを目撃するという悲劇です。

――オープニングシークエンスが、シーズン1では血流を表していたのに対し、シーズン2では刺繍のタペストリーに変わりました。どんな意図が込められているのでしょうか?

コンダル:シーズン1はこの家系図を確立するシーズンなので、オープニングシークエンスも、この家系をダイナミックで興味深いビジュアルで確立したいと考えていました。シーズン1では、この一族の何世代にもわたる歴史が描かれたので、オープニングシークエンスで家系図を用いて血筋を描くことが適切な始め方だと思いました。それが一段落し定着したシーズン2では、私たちが今経験している“生きている歴史”のひとつに見えるように、ターガリエンをここに加えたのです。中世のタペストリーが歴史を記録し、後世に物語を伝える方法となっていることに、私はいつもとても魅力を感じていました。特に、中世の何百ヤードも続くような家系図のタペストリーが大好きでした。中世の歴史や文化について私たちが当然のように知っていることの多くは、明らかに当時作られたタペストリーの歴史的分析から引き出されたものだからです。タペストリーは、歴史を視覚的に記録する興味深い方法だったのです。タペストリーが縫われていく様子は、このシリーズの登場人物たちが、歴史の中で非常に重要な時代を生きていると知っていただくためです。歴史が展開するにつれて、このタペストリーの中で永久に縫い継がれていくのです。

――『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』は、原作の『炎と血』では描かれない登場人物やシチュエーションの空白を埋めることになります。苦労されたのはどんな点ですか?

コンダル:これはかなり厄介な脚色作業です。原作は、ジョージが言うところの擬似歴史書ですから。デヴィッド(・ベニオフ/『ゲーム・オブ・スローンズ』ショーランナー)とダン(・ブレット・ワイス/共同ショーランナー)が『ゲーム・オブ・スローンズ』を作った際に参照したような膨大なページ数のプロットはありません。実際、それが彼らが直面した課題でした。つまり、1シーズン10話でどう物語を語り、さらに物語を動かし続けるために原作から何を削るのか?という。私たちにとっては、どこを作り上げ、どの部分を工夫し、史実と原作の物語に忠実であり続けるにはどうすればいいのか、という課題です。最初の2シーズンを通して描く物語は、『炎と血』においては60ページほどしかありません。そのためには、A地点からC地点への道のりを説明し、その途中にあるB地点を描くには、膨大な量の創作が必要です。そして、このドラマシリーズの面白いところは、たくさんの「なぜ?」と「なぜそうなったか?」を語れることだと思います。『炎と血』が輪郭を示し、なにがこうなって、ああなるのか。私たちはそれらの余白をドラマ化し、歴史書には決して載らないような宮廷の陰謀や、影で交わされる会話をすべて見せることができました。願わくば、文字で書かれた歴史に完全なる三次元性をもたらしたいのです。

(取材・文=平井伊都子)

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