ジャパンはあまりに“ウブ”だった…判で押したようなモール攻撃でマオリ・オールブラックスに完敗(永田洋光)

原田のトライで先制したが…

29日に秩父宮ラグビー場で行われたリポビタンDチャレンジカップ2024第2戦は、対戦相手のマオリ・オールブラックスが正規の代表ではないため、日本も代表ではなく、それに準じるジャパンXV(フィフティーン)として臨んだ。前回22日の第1戦、17対52で敗れたイングランド戦に続く完敗。ラグビー取材歴30年以上のスポーツライター、永田洋光氏がリポートする。

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正規代表でないとはいえ、マオリ・オールブラックスは、ニュージーランドの先住民族マオリ族の血を引くトップ選手で構成されたチーム。エディ・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)も「世界ランク10位以内に入るレベル」と、その実力を警戒していた。

案の定、試合内容は先週のイングランド代表戦とほぼ同じ。

「超速ラグビー」に取り組むジャパンが試合開始から約10分間を支配し、立ち上がり早々にH0原田衛のトライで先取点を奪いながら、時間の経過とともに相手に対応されてミスを連発。ずるずると失点を重ねて、最終スコアは10対36、トライ数2対6の完敗だった。

そんな試合の数少ない見せ場が、開始早々の1分過ぎに訪れた。

先発で10番を背負い、SOとして登場した山沢拓也(29)が、相手防御のギャップを一気に駆け抜けて大きく突破。トライには結びつかなかったが、チャンスを作り出した。

17分過ぎには、相手ゴール前のモールでアドバンテージを得ると、左サイドでボールを受けた山沢が、右タッチライン際へ意表を突いたキックパス。これが、WTBヴィリアメ・ツイドラキにドンピシャで合って、場内のボルテージが一気に上昇する。しかし、懸命に戻ったマオリ・オールブラックスの強烈なタックルを受けて、ツイドラキがトライ寸前でまさかの落球! トライは幻と消えた。

それでも、パス、ラン、キックと司令塔としても非凡な才能を見せて、山沢はファンの大声援に応えた。

「今のラグビーは、やっていてキツいけど、自分の良さを出せるラグビーだと思っています」

まさに超速ラグビーの申し子といったプレーぶりだった。

しかし、ジャパンが連敗したことは動かぬ事実。

エディ・ジョーンズHCは、「ジャパンは相手の22メートルラインのなかに11回攻め込んだ(しかし得点したのは2回)。相手は7回しか我々の22メートルライン内に攻め込んでいないのに、そのほとんどを得点に結びつけた」と話し、「負けることが嫌いだから、負けた結果に怒っている」と言葉を継いだ。

■攻撃の選択肢はもっと用意しているはずなのに…

確かに、強化を始めたばかりのチームには課題が多い。

特に、前半に5回あったゴール前ラインアウトのチャンスをモールにこだわりながら、得点に結びついたのは、共同ゲームキャプテンを務めた原田のトライに至った1度だけ。「この1週間、モールにこだわって練習してきた」と原田は振り返ったが、攻撃の選択肢はもっと用意しているはず。

先週に続いてFBで先発して活躍した矢崎由高や、この日もトライを挙げたWTB根塚洸雅のようなランナーもいるのに、判で押したようにモールを組んでチャンスを逃すのでは、勝負という点から見れば、ジャパンはあまりにも"ウブ"だった。

山沢は、「モールでペナルティのアドバンテージが出たらバックスで攻める用意もしていた」と明かしたが、そうなったときに「相手はボールを渡さないように嫌らしいことをやってきた」。

つまり、勝利に執念を燃やすトップレベルの駆け引きに、対応できなかったのだ。

それが、先発15人の総キャップ数が52、控えを含めても23人で合計76と、リーチ マイケル(85キャップ)1人分にも及ばない若いチームの限界なのかもしれない。

やはり共同ゲームキャプテンで、チーム最多の21キャップを持つSH斎藤直人は言う。

「アタックして、ちょっとブレイク(突破)した後のミスが本当に多かった。そこでトライを獲り切らないとテストマッチには勝てない」

27年W杯オーストラリア大会を見据えた長い強化の第一段階とはいえ、チームの目標は世界の強豪を倒すこと。それなのに、いつまでも選手の見極めに試合が消費され、結果ではなく可能性ばかりがクローズアップされるのでは、代表に対するファンの信頼も揺らぐ。

若手の発掘・育成と、チーム強化という、矛盾しがちな命題の両立を迫られているジャパンは、この隘路をどう打開するのか。

7月6日は、豊田スタジアムでふたたびマオリ・オールブラックスに挑む。

▽永田洋光(ながた・ひろみつ) 出版社勤務を経てフリーになり、1988年度からラグビー記事を中心に執筆活動を続けて現在に至る。2007年「勝つことのみが善である 宿澤広朗全戦全勝の哲学」(ぴあ)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。近著に近著に「明治大学ラグビー部 勇者の100年」(二見書房)などがある。

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