「消える町の本屋さん」復活のカギは「お客さんの声を聞き、地域のニーズを把握」 国のチームが視察【広島発】

「町の本屋さん」は全国的に減少しているが、広島県庄原市では、新刊書店がなくなった地域に新たにできた書店がにぎわいを見せていて、話題になっている。「町の本屋さん」再興を目指す国のプロジェクトチームが視察に訪れた。人が集まるわけは、どこにあるのかを取材した。

“本を浴びる”という意味の店名「ほなび」

コンビニエンスストアの跡地に新しくオープンした書店「ほなび」が、全国の出版関係者から注目を集めている。

「ほなび」をオープンさせた佐藤友則さんは、「本が売れない」と言われる時代にあえて、本の温もりを届けようと奮闘している。お客さんの声を聞けば、地域のニーズがおのずと見えてくるという。

「ほなび」佐藤友則社長:
お客様の声を反映して、集約していく本の並びの中から、地域のニーズ、本当に地域が求めることが見えてくるはずなんですね

庄原市中心部では2023年に相次いで2つの書店が閉店し、古書店だけになった。この新刊書店の「空白地帯」をどうにかできないかと、隣町で書店を営んでいた佐藤さんが店を開いた。佐藤さんの書店経営の哲学は、1~2割は地域のお客さんが関心を持ちそうな本を置くことだそうだ。

「ほなび」佐藤友則社長:
8割はいたって普通の本を置いて、あと1~2割くらいは、地域のお客様の琴線にふれるような本、一歩立ち止まってもらえるものを置く

お客さん1人1人の要望を聞く「地域密着」型

隣町で佐藤さんが経営する書店は、故障した家電の相談など、地域の高齢者の困りごとを聞く“何でも屋さん”のような存在だ。また「学校に行かなくなった子どもを働かせてほしい」という要望を聞き、店では、同じ境遇の若者らが次々と働くようになった。

23歳で「ほなび」の店長に抜擢された原田彩花さんは、1人1人に耳を傾け、目当ての本が見つかるまで探す「距離の近さ」がお客さんから好評だ。

“探していた本を見つけてもらった”とうれしそうに話すお客さんは、「ネットもあるけれども、本を買うには本屋さんで買うイメージ。そのほうが楽しい」という。

お客さんが途切れずに来店し「この本を探しているんだけど…」とたずねてくることに、原田店長も「本に対して熱意や愛を持っている人がすごく多い」と感じていると話す。

「ほなび」への地域の期待は、開店前の4月末に店に本を並べる「棚入れ」に、地域の人たちがボランティアで参加していたことにもあらわれていた。

予想を上回る集客で中国経済産業局が視察に

庄原市は人口約3万人の中山間地域だが、「ほなび」には当初の予想を上回る人がやってきている。

書籍のデジタル化やネット販売の台頭など、出版業界を取り巻く環境が大きく変わる中、全国の書店はこの20年間でほぼ半減。経済産業省は3月に「書店振興プロジェクトチーム」を立ち上げた。

「ほなび」を視察したのは、経産省の出先機関、中国経済産業局の本好きの職員たちによる部署横断チーム。視察では、店と地域の結びつきをどう高められるかに今後の可能性を感じたようだ。

中国経済産業局の實國慎一局長は、「キーワードは未来と子供、地域の人たち。書店を残すために、我々も色々取り組んでいかないといけないなと思った」と話す。

「ほなび」佐藤友則社長:
お客様に教えてもらうことで本屋さんが変わっていく。書店員が成長していく。それが本屋さんが成長していくということだと思う

経産省のプロジェクトチームは、書店の価値の「見える化」や実際に足を運ぶ人を増やすことなどを目標に掲げる。佐藤さんの店は、お客さんと店員が「face to face」の関係をつくり、お客さんが行って話をしたいと思う「町の本屋さん」というところが魅力のようだ。

(テレビ新広島)

© FNNプライムオンライン