仏下院選、マクロン与党惨敗 右派国民連合躍進

Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・フランス国民議会総選挙の第一回投票では、「国民連合(RN)」が33%で首位となった。

・バルデラ氏のSNS活動により、RNはルペン氏が得られなかった層からの支持を得ることに成功。

・仏政治への影響は今回の選挙だけで見極めるべきではなく、3年後の大統領選の結果が重要。

フランス国民議会(下院、577議席)総選挙の第1回投票が30日に行われた。選挙の結果は、事前のアンケートによる予想通り、「国民連合(RN)」が33%で首位となった。「新人民戦線(NFP)」は28.5%で2位。マクロンの党「再生(ルネサンス)」とその協力者が集まった「与党連合(アンサンブル)」は、22%となり3位となった。

投票率は最終的には68.5%になるだろうと予想されており、国民の10人のうち7人が投票したという30年ぶりの高い水準であり、国民の関心の高い選挙であったことがよくわかる。

このまま2回目の投票でもRNが第1党になれば、28歳のジョルダン・バルデラ党首が首相の座に就くと予想されている。そうなれば、大統領と首相の党派が異なる「コアビタシオン(保革共存)」で政権を担うことになり、長期的にフランス政局の混乱が続く可能性も否定できない。以前のフランスであれば極右が政権を握るということは考えられなかったことだ。いつ誰がこのような展開になること予想できただろうか。

若者票の獲得を目指したマクロン氏とルペン氏

事態が大きく展開しはじめたのは、2022年4月24日に行われた大統領戦だ。最終的には中道派のエマニュエル・マクロン氏が再選したが、内訳はマクロン氏が得票率58.55%、RNのマリーヌ・ルペン氏が前回大統領選挙(2017年)の第2回投票の得票率33.90%から約8ポイント増加し、41.45%になり、かなりの接戦となった。

大統領選では敗北したものの国民議会選での戦いを誓ったルペン氏。ついに迎えた2022年の国民議会の選挙で、改選前に議席数が一桁だったのにもかかわらず、物価高に不満を抱く有権者らを取り込んで89議席を獲得。この結果マクロン氏設立の与党「再生」(共和国前進を改称)に次ぐ第2党に躍進したのだ。

マクロン大統領を支える3与党は、国民議会(定数577)で獲得した議席が250となり、過半数を39議席下回るという結果になったが、ここでルペン氏はすでに次回の大統領選に向けて準備に入りはじめた。

2022年の大統領選では、第一回、第2回の投票で、いずれも投票率が低かったのは35歳未満の若者だ。このことから重要になるのは、若者の票の獲得だということが理解できる。こういった状況も踏まえルペン氏は、28歳のバルデラ氏に党首の座を譲り若者の投票率を伸ばすことに注力した。

バルデラ氏は、2020年からルペン氏の姪のパートナーでもあり、ルペンファミリーの一員として交流を深めてきた人物だ。だがそれだけではない。イタリア人とアルジェリア人を親に持つサンドニ出身の人物であることは大きな意味を持つ。サンドニはパリの郊外であり、特に移民出身者が多く住んでいるとしてしられている町だ。バルデラ氏はサンドニで移民出身者の状況を身近で見て育ってきたのだ。しかしながら、彼自身は私立の高校に通っていたため、サンドニ地域内の住人の階層的には上位に居た。それでも、お嬢様育ちのマリーヌ・ルペン氏が経験したことがない状況を把握している人物であることは間違いない。

【写真】「国民連合(RN)」のジョルダン・バルデラ党首(2024年6月24日 フランス・パリ)

【出典】 Chesnot/Getty Images

このルペン氏にはない背景と知識を持つバルデラ氏は、ルペン氏にかけていた部分を大きく補強することになる。ルペン氏は、バルデラ氏を2021年に党首代行に任命したあと、ついに2022年には党首に据えた。SNSネイティブな若者であるバルデラ氏はルペン氏の要請に答えるべく、TikTokYouTubeを自由自在に使いこなし、SNSでフレンドリーな発信を活発に行うことにより若者たちから身近な存在となっていった。この結果、RNは、ルペン氏が得られなかった層からの支持を得ることに成功したのだ。

SNSの利用は、同じく若者からの支持を獲得しようとするマクロン氏も活発に行ってきていたことは間違いないが、そこはやはり年配者である。若者のようには使いこなしてはいなかったように感じられる。フランスで人気があるユーチューバーとコラボしたり、同じく人気があるサッカー選手のキリアン・エムバペと親密さを深めたり、かなり奮闘はしていたものの、なにか発信内容が全体的に硬いのだ。いくらSNSで発信したとしても、そんな硬い内容を気軽に見る若者はほぼいないだろう。そのあたりでは、完全にバルデラ氏に負けていたと言えるかもしれない。

このように、RNはどんどん若者の票を伸ばしていき、またその一方でロシアのウクライナ侵攻などによる世界的な物価高騰が、移民を排斥するRNの人気をさらに高める要素の一つとなった。

移民に対する拒否感

最近でた国家人権諮問委員会の年次報告書によれば、43%のフランス人は、フランスで生まれた移民の子供は、本当のフランス人ではないと思っており、53%が移民の割合が多すぎると思っているという結果がでている。この結果は、フランス人はますます人種差別的になっていることを示している。フランス人の移民に対する寛容さを0から100の数字で示した結果は(指数が100に近づくほど、寛容)、62ポイントとなり、1年で3ポイント低下したことがわかった。

もちろんこういった感情を持つ人は昔からいたが、たとえ移民が嫌だったとしても、それでも自分の生活が苦しくなければさほど気にならないものでもあったともいえる。しかし、物価が高騰して自分の生活が苦しくなるとその状況は変わってくる。自分の生活が苦しいのにもかかわらず、今までフランスに貢献してきたわけでもない移民にばかり補助金が多く与えられたり、フランス人の中でもホームレスで大変な思いをしているのにもかかわらす、海からわたってきた外国からきた難民に住居が提供される姿に腹立たしさを覚える国民が増加したのだ。

さらに、フランスの状況を語るために絶対に外せないことがある。それは、エリートに対する根深い恨みだ。

エリートに対する根深い恨み

フランスのエリートと庶民の対立の歴史は長い。富を得るものが貴族に限られたような階層社会で庶民はいつも苦しんできた。フランスは、親の階層がそのまま子供に引き継がれる時代が長く続き、階層間での移動が少なかったことでエリートと庶民の文化や考え方も完全に異なってきている。

こういうことを言うと日本にもそういったことは存在するという人もいるだろう。確かに日本にも一部は同じような状況が存在するのは認めるが、しかし、日本のそれとは大きく異なる部分もある。その一つは、完全に役割までが固定されていることだ。例えば日本では社長が会社の玄関を掃除するなどの姿が見られるが、ヨーロッパの階層社会ではエリートが仕事場を掃除することはない。なぜなら掃除は下層の労働者がする仕事でありエリートがする仕事ではないからである。しかも日本では努力次第で階層をこえた出世も比較的可能であったが、フランスでは努力だけではこえられないことが多くあった。現在ではそのあたりは改革により多少は改善してきているものの、それでもまだまだ移行の段階であり、現代でもこの格差に苦しんでいる人々が沢山いるのだ。

その結果、庶民は自分にはなりえない存在を憎み、それがエリートであり、そのエリートの代表はマクロン氏という構図が存在している。

今回の選挙は、フランス人の60%が今回の選挙を「マクロン大統領に反対する国民投票」と見なしており、32%が「国民連合RNの政権獲得に反対する国民投票」であると考えている結果まででている。

選挙がマクロン氏を嫌っているかを示すための道具となっていることから、ブリュノ・ルメール経済・財務相は、「大統領のことは放っておこう。マクロン氏は今回の選挙の争点ではない。この選挙はフランスの将来を決定する選挙だ。」と呼びかけたぐらいである。

大きな波乱を生み出した国民議会の解散

左右から批判を浴びるマクロン政権の改革であるが、多くの改革がフランスが前進していくために必要であり、エコノミストの間ではマクロン政権期の経済パフォーマンスには定評がある。例えば、外国企業の誘致やスタートアップ支援も成果を挙げている。失業率も過去25年以来の低水準になり、若者の失業率も減少している。また欧州議会選挙を前にドイツのショルツ首相と連名でまとめた欧州主権の強化のための、EUが取り組むべき課題に関する提言もフランスの利益にかなうものだ。

しかし、物価が上昇し、生活の苦しさに悩む庶民は、マクロン政権の政策の成果やEUの改革を進めることによって利益を実感することはなかった。そんな理解ができないことをしている人よりも、目先の利益を提案してくれるRNの方がわかりやすい。この結果、2024年6月9日に開票された欧州議会選では、フランス中道派が惨敗。RNへの得票率は31パーセントあまりに達し、マクロン大統領の与党連合に倍以上の差を付けて圧勝したのだ。

確かに、イタリアやオーストラリアなどヨーロッパでは極右政党が台頭してきているものの、EU議会自体はフォンデアライエン欧州委員会委員長が率いる中道派が過半数を占めており、エコロジーの派閥が減った分反対に議席が増えた状況での出来事であった。

すでにRNが躍進することは事前の調査によりわかっていたことでもあり、国民の関心が薄いEU議会の結果に対しての国民の反応はそこまで大きくなかったが、それよりもマクロン大統領がEU議会の結果を受けてフランス国民議会の解散・総選挙という賭けにでたことで、フランス国内だけではなく、ヨーロッパ株式市場も動揺させた。

実際のところ、マクロン大統領を支える与党は、前回の国民議会で過半数を取れなかったため、法案を通すのに苦戦を余儀なくされた苦しい状況であったことは間違いない。年金改革などの法案は野党からの賛成は得られないため、議会採決なしに法案を成立させる憲法49条3項の特例を用いて通してきた。憲法49条3項の特例を使用することは、フランス国民から不満に思われている。憲法49条3項の特例を使えば使うほど国民からの信頼が落ちていくが、なんとエリザベス・ボーン氏が首相の間に23回という歴代の首相の中でも記録的な回数を使用している。それほど困難な状況に陥ってもいたからでもあり、また、今後も憲法49条3項を使用していかなければ法案を通すことは難しい状況なのである。

この難しい状況の中で、次回の大統領選までの3年間を戦っていかなければいけない。法案を無理に通せば通すほど国民の不満は募り、野党からの反発が強くなるのは必須だ。マクロン氏が国民議会の解散の正当性を訴える書簡の中でも、年内の政権退陣を野党が画策しており、年間予算の議会通過が必要な時期に行われることの方がリスクであると述べている。そのような事情を踏まえた上で、マクロン大統領は、議会の解散を何週間も前から計画してきた。今回の国民議会解散は、マクロン大統領にとってはまさしく背水の陣でもあったが、必要なことでもあったのだ。

2回目の選挙の結果がまたれるが本命は3年後の大統領選

1回目の国民議会の結果は予想通りRNの圧勝で終わったが、これが従来であれば、1回目選挙で一度RNに傾いたとしても、「極右包囲網」が沸き上がり、2回目選挙では国民連合の勢いを封じられる伝統的なメカニズムがあるところだ。だが現在は、この伝統的なメカニズムが働くかも疑問視されている状況でもある。この流れを変えることは難しいであろう。

いずれにせよ、この国民議会解散の結果は今回の選挙だけで見極めるべきではない。最終的な結果は、3年後の大統領選がどうなるかである。3年後にRNのルペン氏が大統領になっているか、それとも別の誰かが大統領になるか。それが焦点であることは覚えておいてほしい。

参考リンク

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トップ写真:投票所を後にするエマニュエル・マクロン仏大統領とブリジット・マクロン夫人。(2024年6月30日 フランス・ル・トゥーケ・パリ・プラージュ)

出典:Sébastien Courdji/Getty Images

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