【社説】米大統領選討論 両候補とも不安さらした

米大統領は自国だけではなく、世界のリーダーにふさわしい人格と識見を備えた人物であるべきだ。有力2候補は心もとない。世界が不安を感じているだろう。

11月の大統領選に向け、民主党のバイデン大統領(81)と返り咲きを目指す共和党のトランプ前大統領(78)による初のテレビ討論会が開かれた。

有権者が大統領の資質を見極める重要な機会だ。発言内容はもちろん、表情や話しぶりに注目が集まる。投票先を決めていない無党派層の動向も左右する。

90分間で、新型コロナウイルス禍後の経済、不法移民対策、人工妊娠中絶、ウクライナ侵攻、パレスチナ情勢など議題は多岐にわたった。

目立ったのは非難の応酬である。互いに「史上最悪の大統領」「うそつき」とののしり合い、政策論議は空回りした。中国、アジアの情勢に関するやりとりはない。極めて残念な結果だった。

バイデン氏は明らかに精彩を欠いた。顔色は悪く、時々声がかすれ、言いよどんだ。政権の実績としてメディケア(高齢者向け公的医療保険)の拡充に言及する場面で、どういうわけか「メディケアを退治した」と誤った。

主催したCNNテレビの世論調査によると、67%がトランプ氏が討論会で勝利したと答え、バイデン氏の33%を大きく上回った。

バイデン氏には民主党内からも「ひどかった」と批判が噴出し、党内に動揺が見られる。高齢不安は払拭できず、候補者の差し替えを求める声すらある。

一方、気を良くしているであろうトランプ氏も、国民を不安にさせた点ではバイデン氏に劣らない。

司会者の質問をたびたび無視し、関係のない発言を繰り返した。いつもながらの議論のすり替え、虚偽の主張が目についた。

特に問題なのは、民主主義の根幹を成す選挙の結果をないがしろにする態度である。

4年前の大統領選の敗北を認めていないトランプ氏に対し、司会者は「誰が勝っても選挙結果を受け入れるか」と質問した。トランプ氏は回答をはぐらかし、3度目の同じ質問でようやく「公正で合法な選挙なら」と条件付きで答えた。

このような発言では、選挙後に再び混乱に陥る恐れを抱かざるを得ない。

バイデン氏は撤退せずに選挙戦を続ける意向だ。当選すれば2期目の任期を終える時は86歳になる。それまで政権を担う体力と気力を維持できるのか。自身と冷静に向き合う必要があろう。

自信があるのなら、9月の次回討論会でその姿を示してもらいたい。

トランプ氏は4年前に再選を果たせなかった原因を謙虚に振り返るべきだ。いまだに反省の様子がうかがえない。それが共和党にとって最大の懸念材料である。

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