リコーと東芝テックの合弁「エトリア株式会社」が発足、A3 MFP向けの共通エンジンを早期に製品化へ

by 大河原 克行

リコーと東芝テックの合弁会社であるエトリア(ETRIA)株式会社が7月1日付けで設立され、事業を開始した。MFP(複合機)の共通エンジンの開発や生産を行い、リコーおよび東芝テックのMFPに搭載。スケールメリットを生かし、競争力の高い商品づくりを目指す。

合弁会社の設立スキームは、リコーと東芝テックを株主とするリコーテクノロジーズを母体に、両社のMFPなどの開発、生産に関する事業を統合した。資本金は5億円。リコーが85%、東芝テックが15%を出資する。ETRIAは、リコーの連結子会社となり、東芝テックの持ち分法適用会社となる。

本社は神奈川県横浜市に置き、社長には、リコーのコーポレート専務執行役員 リコーデジタルプロダクツビジネスユニットプレジデントの中田克典氏が就いた。

エトリア 代表取締役 社長執行役員の中田克典氏

従業員数は約3200人。また、グループ企業として、6カ国に15社(リコーから5カ国9社、東芝テックから5カ国6社)を展開。グループ従業員数は約1万1400人となり、そのうち国内が約3400人、海外が約8000人の構成となる。また、リコーからは約8400人、東芝テックからは約3000人が異動した。

会社概要
ETRIA関連海外拠点 12拠点

日本では、リコーの開発拠点が海老名にあり、東芝テックの本体生産拠点が三島にあることから、その延長線上にある横浜に本社を設置。両社が世界中に展開しているMFP本体や周辺機の生産、キッティング拠点、オプション生産、ドラムやインクの生産、粉砕トナーの生産や充填を行う拠点などが含まれる。

ETRIA関連国内拠点 8拠点

中田社長は、「リコーのオフィスプリンティング事業と、東芝テックのオフィスプリンティング事業およびAuto-ID事業の開発および生産機能を移管し、組成した企業になる。共通エンジンは、A3 MFP向けのエンジンになる。できるだけ早い時期に出したい。2026年度を待たずに製品化することになるだろう。また、市場が右肩下がりであれば、生産拠点の見直しに着手することもあるだろうが、いまの段階では忙しくなると考えている。MFPという成熟した業界において革命を起こし、未踏の領域に挑戦することで、ほかの業界のロールモデルとなり、新たな歴史を創造したい」と抱負を述べた。

具体的な売上目標については明らかにはしなかったが、2024年度(2024年7月~2025年3月までの9カ月間)は4000億円弱と見込んでおり、2025年度(2025年4月~2026年3月)には4000億円を突破する計画だ。2026年度(2026年4月~2027年3月)はさらに売上高を成長させる。

「売上高は、リコーや東芝テックに対する販売であり、それによって変化する。利益を出し続けることが前提であり、この2年間に利益体質を確実なものにしたい。営業利益率は5%を維持することになり、それ以上の利益が出たときにはブランドオーナーに還元する。共通エンジンは、リコーおよび東芝テック以外にも提供したいと考えているが、事業計画には盛り込んでいない」などとした。

マーケットシェアと事業計画

今回の新会社発足にあわせて、リコーで開発したA4カラーエンジンを、ETRIAの製品として量産開始することも発表した。31ppm以上のA4カラーMFPにおいて、最も設置面積が小さい商品を実現でき、環境性能や高度なセキュリティ基準にも対応したものになるという。2024年9月以降、このエンジンを採用したA4カラーMFPが、リコーから発売されることになる予定で、東芝テックにもエンジン採用の提案を行っていくことになる。だが、このエンジンについては、共通エンジンとは位置づけていない。

また、2024年7月からは周辺機のOEM販売も開始する。「周辺機の事業成長にも期待しており、事業計画のなかに織り込んでいる」と述べた。

一方で、ETRIAが開発する共通エンジンは、LC(Linear Economy to Circular Economy)変換の手法を採用し、モノづくりを抜本的に転換するすることも明らかにした。

LC変換では、一方通行の消費であるリニアエコノミーから、完全リサイクルを意識したサーキュラーエコノミーへの移行を図るものになるという。

「これまでは、作りやすい設計をすることがコストダウンにつながり、競争力を高めることにつながっていた。だが、ETRIAが目指すのは、いかに分解しやすいかという設計である。修理可能なレベルを明確化し、耐久性と信頼性を高めるモノづくりを行う。また、今後は、中古市場も我々にとって重要な市場になる。再生ビジネスにおいて、価値向上につなげられるようにする。純正部品を使ってもらいながら、パートナーが再生ビジネスを行えるように情報公開も行っていく計画だ。業界全体を巻き込んだ循環型エコシステムの構築にも取り組みたい」と述べた。

これから仕掛けていくこと LC変換

2025年度以降の市場投入に向けて開発する共通エンジンは、リコーと東芝テックがそれぞれに利用することになるが、両社は独自のコントローラーを搭載して、最終商品は差別化することになる。

「東芝テックの市場シェアは、10年間変化がない。これは、リコーとバッティングしていないことが要因のひとつである。東芝テックはPOSで使われる商品を持ち、それらのお客さまに対して、ラベルプリンタをはじめとした小売向けの各種デバイスと連携するMFPを提案している。コントローラーとユーザーインターフェイスがまったく異なり、東芝テックのお客さまに、リコーのMFPを提案しても満足してもらえない。そうした環境のなかで共通エンジンを利用することになる」と説明する。

両ブランドオーナーが実現する提供価値を支える

また、東芝テックではAuto-ID事業を展開し、自動的にバーコードやICタグなどのデータを取り込み、内容を識別・管理するといったソリューションを提案しているが、「ETRIAでは、この分野にも力を入れる。オフラインのデバイスを、オンライン上に展開できる仕組みを作り上げ、新たなビジネスにつなげたい」とした。

中田社長は、「プリンティング業界の規模は縮小し、ペーパーレス化の加速により、消耗品ビジネスが減少し、利益率が悪化している。だが、紙によるコミュニケーション手段はなくならないことを前提にしている。また、情報の安全性や環境規制への対応、サーキュラーエコノミーへの移行も意識する必要がある。一方で、世界のMFP市場は、日本のメーカーが8割の市場シェアを持ち、日本の技術力を生かすことができているのが特徴だが、多様化するニーズへの対応、厳しい市場環境のなかで、エンジンやトナーなどの開発に、単独で新規に投資することは難しく、単独で投資をしてはもったいないという状況にある。共通化できるところ、協業できるところであれば、いろいろなメーカーと手を組むべきである。ETRIAの設立の狙いはそこにある」と説明した。

ETRIAの母体となったリコーテクノロジーズでは、周辺機の開発を行っていたが、2020年に、開発会社から事業会社に移行。周辺機を他社が扱えるようなビジネスに転換した経緯がある。

ETRIAでは、技術シナジーの創出により魅力あるエンジンの開発が可能になり、コストダウンにも直結すること、生産拠点の最適活用による安定した製品供給を実現できること、製品安全基準を融合したモノづくりを実現できることに加えて、不燃材や難燃剤を最適に利用し、環境に配慮したモノづくりも可能になるというメリットがあるとしている。

「完成品の生産だけでなく、部品の調達に関しても、中国製以外のもので構成できるように準備をすることができている。また、環境規制によって、これまで使えていた部品や材料が使えなくなるといったことも発生するが、両社のノウハウを融合することで、柔軟な対応が可能になるだろう。部品の共通化によるメリットも生かすことができる」などとした。

ETRIAで実現すること

MFP分野では、コニカミノルタと富士フイルムビジネスイノベーションが、部材調達やトナーの開発、生産での協業を発表しているが、「ETRIAでは、共通エンジンを開発、生産するという一歩踏み込んだものになっており、そこまで踏み込まないとシナジーが出ないと考えている。部品の共通化や、生産ラインの統合による効率化も図ることができる。また、合弁会社としたことで、部品の共通化についても、どちらかを捨てて、どちらかを採用するという選択ではなく、踏み込んでいるからこそ、一緒に検討して、いいものを採用することができる。これが数年後により大きな成果につながることを期待している」と語った。

ETRIAとブランドオーナーの関係

なお、ETRIAの社名は、社員から募集し、多数決で決定したものだという。

ETRIAの社名の中心にあるのは「Try」であり、社名の先頭には「Eternal」、右隣には「Innovation」、末尾には「Alliance」の頭文字を使ったという。

「ETRIAはメーカーである。メーカーは、モノをつくり、お客さまにイノベーションを起こし、新たな価値創出を支援する。メーカーは、収益性が高いソフトウェアにシフトする傾向が強いが、誰かがハードウェアを作らないと、イノベーションは続かない。そこで、ETRIAは、トライを続け、イノベーションを起こし続ける役割を担うことを決めた。そのためには、業界の垣根を越え、競合とも手を取り合って、アライアンスを行うことが重要である。そうした思いを込めた社名である」と述べた。

社名 ETRIAに込めた想い

また、ログラインは「Your Digital Device Partner」とし、顧客に寄り添うことが、ETRIAの価値創出の原動力であることを示したという。

さらにミッションでは、「アナログ情報とデジタル情報を、シームレスにつなげ、情報価値を高めるデバイスによって、社会の発展に貢献し続けること」を掲げ、「ワークフローをデジタル化する企業に対して、人とデジタルを結ぶプリンティングデバイスとスキャニングデバイスを提供する。また、人が認識できないアナログの世界があり、ここにも、デジタルを持ち込めるようなデバイスを新たに創出する」と述べた。

ビジョンでは、「世界に必要とされるモノづくりのリーディングカンパニーを目指す」とし、「挑戦をし続けることで新たなビジネスを創出したい。家電のような成熟市場においても、2万円のトースターが売れたり、外出している間にロボットが掃除をしたりといった新たな提案によって、ビジネスチャンスが生まれている。イノベーションに対する投資を続けないと、新たなモノは生まれない。イノベーションを起こすのはハードウェアであると考えている。志を同じくするメーカーから投資を集めて、開発、生産技術を融合することでイノベーションを起こす。これはほかの業界にもプラスになるだろう」と語った。

ETRIAのミッション・ビジョン

エトリアの中田社長は、1985年にリコーに入社。当初はOEMサービス部門に配属され、ハードディスクを担当。だが、自ら申し出て4カ月後にはOEM営業に異動。1995年にはリコーヨーロッパに駐在し、リコー・パーソナル・マルチメディア・カンパニー(PMMC)の欧州責任者として事業を立ち上げた。ここでは、CD-RやDVD-R/RW向けのコンシューマ販売でシェアナンバーワンを獲得した手腕を発揮した。だが、半導体デバイスの広がりによって、リコーは同事業から撤退。ここでは事業収束の経験もしている。

2009年には、光学ユニットカンパニープレジデントとして、自動運転のためのステレオカメラモジュールなどを販売。事業拡大に伴い、2014年にはリコーインダストリーソリューションズの社長に就任し、リコーのFA関連子会社を統合した。2019年にはリコー オフィスプリンティング事業本部の事業本部長として、36年間続く、MFP事業の組織形態を変更に着手。競争力強化を実現した。2021年には現職でもあるリコーデジタルプロダクツビジネスユニットプレジデントに就任。PFUの買収を完了させた。

中田社長の経歴

「ETRIAには、同じMFPを扱っていても、文化が異なり、やり方が違う会社の人が集まるが、それを乗り越える必要がある。若い社員の間では、相手からいろいろなことを学びたいという声もあがっている。ETRIAの1年目は、必死になって走りながら、どれだけ早く、お互いを知ることができるかが重要である。それによって、2年目からのビジネス拡大につなげていくことができる。両ブランドオーナーに喜んでもらえる会社を目指す。3年目には次の成長に向けた足場ができるようにしたい」と語った。

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