「殺意があったのは間違いないだろう」別府市長が言及…遺族の懸命の訴えも「殺人罪」に変更されない背景 別府ひき逃げ事件

大分・別府市で起きた大学生死亡ひき逃げ事件は、発生から2年を迎えた。遺族は「被害者は事故でなく殺された。その無念を晴らしたい」との思いから、全国に重要指名手配されている八田與一(はった よいち)容疑者の殺人罪への変更を申し入れるため、約7万7000人の署名とともに、別府警察署を訪れた。

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「別府願う会」事務局長による「時効を撤廃したい気持ちと、“殺人犯”として攻めの捜査をしていただきたい」との申し入れに、大分県警側は「引き続き、総力を挙げて、全力で取り組む」と答えた。同席した元徳島県警捜査1課警部の秋山博康氏は、申し入れの場で「私の経験から、やはり殺人でやってほしい。遺族の涙を毎日見ている」と呼びかけていた。

これまで遺族らは、現在の道路交通法違反容疑から、殺人罪への変更を求めて、署名活動を行ってきた。5万人を超える賛同を得て、殺人罪での告訴状提出に至った。しかし、受理はされたものの、いまだ殺人罪への変更には至っていない。

亡くなった大学生Aさんの父親は「書類は受理したものの『道交法で最後までいきます』との雰囲気を醸し出していた。『精一杯やれることはやっています』との回答しかない」と語る。現在の「救護義務違反」は7年で時効を迎えるが、殺人罪では撤廃される。

ABEMA的ニュースショーは昨年10月、大分県警への取材で、なぜ殺人容疑に切り替えないのかと質問。県警交通指導課の安藤竜夫次席は当時、「県警としては殺人含め、過失致傷、危険運転致傷などを視野に入れている」としつつ、「殺人となると100%と言えないところもある」と返答。時効が迫ると、殺人罪に切り替えるのかとの問いには、「切り替えるかはその時の判断にもよるが、我々としても、そこまで長引かせるつもりはない」との見解を示していた。

検事を4年務めた西山晴基弁護士(レイ法律事務所)は、一般論として、ひき逃げで殺意や未必の故意が条件となる殺人罪を問うことは難しいと語る。

「実はひき逃げだけでは実刑にならない。過去の裁判例では基本的にそうで、自動車運転過失致死、致傷でひき逃げで救護義務をしなかった事案でも、大多数は執行猶予になっている」(レイ法律事務所・西山晴基弁護士)

とはいえ、ひき逃げで殺人や殺人未遂が適用された事例もある。これまでの例を、西山弁護士が紹介する。

千葉県柏市で2006年、女子高生3人が負傷したひき逃げ事件では、被害者の1人が車両底部に挟まれたまま、約400メートル引きずられ、骨盤などを折る重傷を負った。この事件では運転していた男が、殺人未遂と危険運転致傷の罪で起訴され、懲役16年の実刑判決を受けている。

長野市で2012年に起きた、酒気帯びのひき逃げ事件でも、被害者の1人が車両底部に挟まれたまま、約700メートル引きずられて死亡した。こちらの容疑者は殺人罪で起訴され、懲役17年の実刑判決が下った。「車の下に人を巻き込みながら走れば、人が死ぬ危険性が高いのは明らか。他の衝突事案に比べると、殺意を認定しやすい」と説明。

こんな事例もある。2012年に東京都荒川区の路上で、一時停止違反の乗用車が急発進し、巡査部長をはねて逃走した。巡査部長は左足骨折などの重傷を負い、逃げた2人組は殺人未遂と公務執行妨害で逮捕された。「『警察官が自分を捕まえようとしている』『職務質問しようとしている』という状況をわかりながら車を走らせているところで、殺人未遂や殺人罪は適用されやすくなる。警察にとっても威信に関わるのでより立件して捜査をする」とした。

2021年に北海道苫小牧市で起きた、駐車場ひき逃げ事件にも触れる。クラクションを鳴らされたことに腹を立て、車を追いかけて追突し、運転手にケガを負わせた上に、警察に通報した男性をはねた。容疑者は通報した被害者をめがけて突進し、ブレーキを踏んだ事実はなかった。被害者に対する怒りが決め手となり、裁判員裁判で殺人未遂が認められた。「衝突させる意図があったかが争点になっている」という。では、別府の事件は、なぜ殺人容疑に切り替えられないのか。

「当時の事故状況だけを切り取ると、『交通事故でした』と弁解しやすい。『人に衝突させる意図』があったと推認させるには、動機が解明できないといけないが、本人の供述がない状況では、なかなか解明できないというところで二の足をふんでいるのではないか」

その一方で、被害者のAさんと八田容疑者が、事件直前に口論になっていたことから、「十分に『衝突させる意図』があったという方向性で考えられる」とも指摘する。状況証拠に鑑みて、「殺人容疑に切り替えることは難しくない」としながら、元検察官として「別の事情」も示す。

「2年間たち、恐らく証拠関係はある程度そろっていて、大きく変動している可能性は考えがたい。あと解明できていないことは『動機』かなと思う。供述を取れていないところから、その部分を裁判所に指摘された時に答えられない。それで逮捕令状が出なかったとなると、『別府警察は失敗した』という評価になってしまう」

そして6月28日、遺族らと面会をした大分県別府市の長野恭紘市長は「ひき逃げではなく、殺人罪で(容疑を切り替える)という署名活動をしていると聞いている。本当にひどすぎる、殺意があったのは間違いないだろうと思っている」と、自身の見解を述べている。

弁護士の清原博氏は、「逮捕状を取るには、相当な理由を裁判所に示さないといけない。証拠が必要だが、裁判所が『これは殺人とは言えない』と思えば、逮捕状を出してくれない」と説明。その上で、もし逮捕状が出なくても「大分県警が失敗したとは取られない」との見方を示す。「非難されることはなく、大分県警はよくやってくれていると示せる。失敗を恐れずに、逮捕状を請求すべき。県警は『どんな証拠が必要か』を考えるべきで、殺人に切り替えるいいタイミングだ」と提案した。

元徳島県警警部の秋山博康氏は「ピラミッド型の警察組織」が持つ課題を語る。「遺族の話を聞き、現場を見て、『これは殺人だ』と思う捜査員は多々いる。ただ上が『いままで通り行け』と、殺人に切り替えないことはあり得る」とした。

情報提供は別府警察署(0977-21-2131)まで。X(旧Twitter)の番組公式アカウント(@News_ABEMA)のダイレクトメッセージでも情報を募集している。

(『ABEMA的ニュースショー』より)

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