【社説】電気・ガス補助金再開 人気取りの道具にするな

 政府は電気・ガス料金の補助金を8~10月に再開する。岸田文雄首相が、通常国会の閉幕に合わせて臨んだ記者会見で表明した。

 5月分で終えたばかりの政策を復活させる形であり、一貫性を欠く。首相は「酷暑乗り切り緊急支援」と説明するが、夏本番の7月分が適用されないことは、場当たり的な対応の証しだろう。9月の自民党総裁選に向けた人気取りとみられても仕方ない。

 物価高対策としては、昨秋に打ち出した定額減税があるが、政権の浮揚に効果があったとは言い難い。共同通信が6月下旬に実施した電話世論調査で、家計への支援に「有効だとは思わない」との回答は69・6%に上った。

 8、9月分の電気の補助は1キロワット時当たり4円、都市ガスは1立方メートル当たり17・5円。標準世帯で電気は月1600円、ガスは月525円、計2125円となる。10月は補助額を減らす。既に確保している予算を充て、足りなければ物価高対策の予備費などで賄うという。

 もともとロシアのウクライナ侵攻や円安に伴う一時的な措置として2023年1月分から始まった。発電燃料の液化天然ガス(LNG)や石炭の輸入価格がウクライナ危機前の水準に下がってきたため、今年5月分で終了した。

 近年の夏の危険な暑さを思うと、ためらいなくエアコンを使える環境づくりは要るだろう。だが燃料価格が急騰していないのに補助を再開するのは、ばらまきに等しい。

 通常国会の閉会直前に初めて公表した手法にも問題がある。国会軽視も甚だしい。政府・与党内でさえ、事前に合意が形成されていたとはいえないようだ。そんな状況のまま、すんなり決まってしまうことを空恐ろしく感じる。

 家庭の電気料金の負担を和らげる観点では、大手電力会社の料金体系の検証も要るだろう。多くが昨年、家庭向けの一部を値上げし、24年3月期決算は過去最高益だった。

 首相は、ガソリンや灯油価格の抑制策も年内は続ける方針を示した。6月に閣議決定した政府の経済財政運営の指針「骨太方針」に「出口を見据えた検討を行う」と盛り込んだばかりである。あきれるほかない。

 補助金を渡す相手が国民や小売店でなく、石油元売り会社とする仕組みにも疑念が残る。会計検査院が昨年、「補助金に相当する額が小売価格に反映されていない可能性がある」と指摘しており、同じ仕組みを続けることは見過ごせない。車に乗る人に恩恵が限られるとの指摘もある。

 この補助金は22年1月に始まった。円安が急激に進んだこともあり、延長を繰り返して支給総額は6兆円余りに膨らんでいる。電気・ガスの補助金と合わせると計10兆円規模になる。

 財政の健全化に背を向けて、大盤振る舞いをする余裕はないはずだ。場当たり的で対処療法に過ぎない物価高対策に、国民は疑問を募らせている。歴史的な円安に正面から向き合う政策こそが求められている。

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