「マイナカードは?」と聞いたら患者にカード投げつけられ… 混乱する医療現場【マイナ保険証の利用「ゴリ押し」キャンペーンの波紋・後編】

6月21日、厚生労働省は、マイナ保険証の利用促進に向け、利用者が増えた病院や薬局に支給する一時金の上限を、20万円から40万円に引き上げる方針を発表した。厚労省は5月から7月を「マイナ保険証の利用促進集中取組月間」とし、一大キャンペーンを行っているが、利用率は伸びていない。過去最高だった5月でも7.73パーセントと、1割にも満たないのが現状だ。

「ゴリ押しとも言える今のやり方では、医療機関も患者も反発・混乱するだけです」

こう話すのは、保健医療を行う医師と歯科医師の10万7千人で構成する「全国保険医団体連合会」の事務局次長・本並省吾さん。後編では病院や診療所の現状について話を聞いた。

■予算が余りそうだから支給を増額?

全国保険医団体連合会 本並省吾さん: 厚労省は、21日の社会保障審議会医療保険部会で、マイナ保険証の利用促進のために、医療機関に支払われる一時金の見直しを提案し、了承されました。これにより、利用者の増加幅に応じた一時金の上限が、最大20万円から40万円に引き上げられました。

この財源はどこから確保されたのでしょうか。今年度、マイナ保険証の利用促進のために、補正予算217億円を計上していますが、反応が薄い状態が続いています。5月から7月にかけての利用促進集中取組月間(3か月キャンペーン)も半分が過ぎましたが、利用者は増えていません。よって「利用者が増加したら医療機関へ支払われる支援金」もあまり使われておらず、一時金(支援金)を倍増させても予算内に収まることでしょう。

■勝手に振り込まれる異例の補助金

全国保険医団体連合会 本並省吾さん:また、この一時金は、医療機関からの申請は不要です。厚労省が計算して、勝手に医療機関の口座に振り込まれる。このような補助金は前例がありません。コロナ禍での感染防止補助金でも、申請や各種書類が必要で、提出してから承諾まで1年以上かかった事例もありました。これらを見ても、この補助金が異質であることが分かります。

■病院スタッフ 患者にカードを投げつけられ…

全国保険医団体連合会 本並省吾さん:しかし、この一時金のことで、病院や診療所の窓口で、トラブルが起こっているのです。

厚労省が作成したトークスクリプト(台本)通り、病院の受付スタッフが患者さんに「マイナンバーカードはお持ちでしょうか」と声をかけたところ、怒った患者さんから、マイナカードを投げつけられたのです。他にも、「あなたたちはお金をもらえていいわね」とか「お金目当てでやっているんでしょう」などと言われることは少なくないようです。

また、医療機関側に問題があるケースもあります。マイナ保険証での受付を優先させ、従来の保険証の患者の順番を後回しにするという方針を取っている病院が、複数あります。患者さんにしてみれば、朝から待っているのに順番を抜かされるのは嫌なものですが、長年通っていたクリニックなら転院も容易ではなかったりします。

■厚労省が各医療機関に「圧」をかける

-Q:先日、かかりつけ医との雑談の中で、医師が「毎月、厚労省からマイナ保険証の利用率についてメールが送られてくるのだけど、今月は何パーセントだ、先月より下がったとか、細かく書いてあって、嫌な気分になるんだよね」と言っていたのですが…

全国保険医団体連合会 本並省吾さん:厚労省は毎月、各医療機関宛に圧力をかけるようなメールを送っています。オンライン資格確認を義務化させ、全国20万件の医療機関にアカウントの登録をさせました、そこに一斉にメールを送っているのです。細かいことに、各病院や薬局の成績(マイナ保険証利用率)が、それぞれのメールに表示されるのです。

保団連の理事も、「このメールがくると、あなたはできない人です、とダメ出しされているような気持ちになって嫌になる」と言っていました。

■利用促進に「協力する」は34パーセント

全国保険医団体連合会 本並省吾さん:6月6日、大阪府保険医協会が「マイナ保険証に関するアンケート」の結果概要を発表しました。247の医療機関からの回答結果によると、「マイナ保険証利用促進集中取組月間」に協力すると答えた医療機関は、83件、34パーセントでした。

しかも、協力すると答えた83機関の内、(協力は)義務だと思っていた機関が22件。さらに、協力すると答えた人の意見も、「利用促進はいいが、やり方が強引すぎる。もっと現場の声を聞くべき」といった厳しいものが見られました。

このマイナ保険証利用促進キャンペーンへの協力は、「お願い」であって、義務ではありません。厚労省は「医療機関がキャンペーンに協力する法令上の義務はない」と言っているのですが、多くの医師が義務だと勘違いしてしまうような形で、医療機関への要請がなされているのです。

■医療は医師と患者の信頼関係で成り立つ「マイナ保険証」に関する不信感が治療に影響することが心配

全国保険医団体連合会 本並省吾さん:また、「協力は考えていない」と回答した人たちの意見として
・不具合が多く、今の状態では患者に対し推進できない
・医師、事務、患者の多くが利便性を感じていない
・マイナンバーカードは紛失の危険があるので常時携帯できない
と言った声が上がっています。

われわれは、デジタル化に反対した訳ではありません。使ってみたら不具合が多く、なかなか解消されないので、それなら従来の保険証で良いのでは、という状態なのです。

本来、医療というのは、医師と患者の信頼関係で成り立っているものです。病気を見つけ、治療方針を説明し、患者が納得して治療を行う。病気の中には、すぐには結果が出ず、医師と患者が二人三脚で、長年、治療を続けるものもたくさんあります。そうやって積み重ねてきたものが、マイナ保険証によって少なからず崩されていることは否めません。「マイナ保険証のことで、なんか怪しいことを言われた」と患者さんが感じたら、治療にも影響が出てしまいます。

患者さんにとって、医療機関にとって、何が一番良い方法なのか、現状を正確に把握し、検討し直して欲しいと思います。 (全国保険医団体連合会 本並省吾さん)

(関西テレビ 2024年6月29日)

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