アウディの新型バッテリEV「Q6 e-tron」試乗 ミドルサイズ導入によってフル電動SUVのラインアップ完成

by 原 アキラ

新型「Q6 e-tron」

2033年までにはICE(内燃エンジン車)を廃止するとしながらも、ポートフォリオ全体を見直すことでPHEVモデルなどを重要視する「両効き」の姿勢を打ち出したアウディ。

とはいえBEV(バッテリ電気自動車)開発の勢いは全く衰えておらず、それは今回スペインで開催された新型「Q6 e-tron」の試乗会ではっきり確かめることができた。さて出来栄えはいかに。

本拠地のインゴルシュタットで初めて製造するBEV

試乗を前に、Q6 e-tronを開発した技術担当者から各分野の詳細なレクチャーを受けた。最初に登壇したプロダクト&テクノロジーとQ6のスポークスパーソンを務めるステファン・グリルネーダー氏からは、「この新型モデルはポルシェと共同開発した次世代BEV向けのプレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)と、私たちがこれまで開発した中で最も重要な電子アーキテクチャであるE3(end to end electronic architecture)1.2を導入した最初のクルマです」と、期待の大きさを表した。

続いてQ6 e-tronプロダクトマネージャーのクリスチャン・ステインホースト氏、PPEのドライブユニット開発を担当したマーティン・シュテマー氏、バッテリ技術開発を担当したウォルドマー・バウアー氏、シャシー開発担当のオズウィン・レーダー氏が順番に担当分野の詳細を解説。その内容は以下のとおりだ。

アウディのフル電動SUVはこれまでにも「Q4」「Q8」という完成度の高いe-tronがあり、今回のQ6 e-tronはその中間に位置するとともに、アウディにとって、また他のメーカーにとって最も重要なセグメントであるプレミアムミッドクラスセグメントに最適なものを提供するために、本拠地のインゴルシュタットで初めて製造するBEVであることを紹介。また、どのBEVセグメントも競争が激しく、その中でアウディは唯一コンパクト、ミッドクラス、上級クラスのどれにもSUVを提供している会社であることを強調した(メルセデスはどうなの、という気もするが)。

Q6 e-tronのボディサイズはQ4より約200mm長くQ8より130mm短い、4771×1939×1648mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2899mm。今回試乗したのは、システム出力285kW(387PS)で、0-100km/h加速5.9秒、最高速210km/h、航続距離625kmの「Q6 e-tronクワトロ」と、出力380kW(517PS)で同じく4.3秒、230km/hを発揮する航続距離600kmの高性能版「SQ6 e-tron」の2台だ。

今回のQ6 e-tronの導入によってBEVのSUVラインアップが完成
Q6 e-tronのディメンション

800Vアーキテクチャで稼働するPPEについては、フロントアクスルに140kW/275Nmを発生する重量87.5kgのASM(非同期機)モーター、リアアクスルにはヘアピンコイルを使用し、重量118.5kg、280kW/580Nmを発生するPSM(永久磁石同期電動機)モーターを搭載。レーシングカーで使用するようなドライサンプ式の新冷却システムなどを採用することで、コンパクト化と軽量化を果たしたという。

またフロア下に敷き詰められた新開発のリチウムイオンバッテリは重量590kgで、その容量は100kWh(実質94.9kWh)。12個のバッテリモジュールの各々に15個の角形セルが並んでいる。800Vテクノロジーによって開始から40%までは一定して270kWで充電できるという高速化が図られ、費やす時間は10%~80%までが約21分、最初の10分間で255kmの航続距離を充電できるという。通常の400Vの充電ステーションであれば、2つのバッテリに135kWの出力で並列充電する仕組みに自動で変更されるという。

ただし、今回の試乗の舞台(スペイン北部のビルバオとサンセバスチャンを往復)には残念ながらこれを試す場所がなく、そのスピード感を確かめることができなかったのは残念なところだ。またブレーキについては、その95%が電気的に回生されるので、電費のためのアクセル操作にあまり気を使う必要がないことも付け加えられた。

PPEについてはフロントアクスルに140kW/275Nmを発生する重量87.5kgのASM(非同期機)モーター、リアアクスルにはヘアピンコイルを使用し、重量118.5kg、280kW/580Nmを発生するPSM(永久磁石同期電動機)モーターを搭載
新開発のリチウムイオンバッテリは重量590kgで、その容量は100kWh
充電時間は10%~80%までが約21分、最初の10分間で255kmの航続距離を充電できるという

エンド ツー エンドの電子アーキテクチャーE3 1.2については、5台の高性能コンピュータ(HPC:ハイパフォーマンス コンピューティング)プラットフォームを備えたドメイン構造に基づいていて、インフォテインメントや各種運転機能(足まわりのコントロールも含む)、将来の部分的自動運転まで制御するシステムだと紹介。他のモデルラインアップ全体でも使用できるように設計されており、バージョンアップを繰り返すことで、将来のイノベーションの基礎になるものとの説明だ。

ちなみに同じ日程に参加したのは、日本からの4人のほか、メキシコやスロベニアなどからのメンバーを含んだ各国混合チームだったのだが、聞けば別日程で訪れた中国チームは一度に22人という大取材団だったとのこと。中国専用モデルとしては、2025年発売予定の「Q6 L e-tron」を別途開発したというから、やっぱり彼の地でのBEVについてはまだまだ多くの台数が期待できるし、マスコミからも大きな注目を浴びるのだと実感させられた次第だ。

販売については、現在欧州諸国に向けて立ち上げており、米国向けは準備中、また年内には海外市場への導入を考えているという。ターゲット層は若い家族やカップルなどで、妥協のないパフォーマンスとテクノロジーを求める人たちだという。価格は1000万円の半ばから後半になるそうだ。

Q6 e-tronのスペックまとめ
試乗ルートについて
Q6クーペバーションの予告も
PPEを採用したQ6 e-tronのシャシー

ボディ全体を司るステアリングや足まわりのコントロール能力が抜群

初日に乗ったQ6 e-tronクワトロは、グレーシャーホワイトのボディにグレーのスポーツシートを組み合わせたSライン仕様のもの。フロントのシングルフレームグリルはQ4やQ8とも異なる新解釈のもので、そのまわりを囲むブラックの面積が広くてよりダイナミックになった顔つきが印象的。ただしエアーを取り入れる部分はバンパー下部だけにあり、そこには状況に応して開閉するシャッターが取り付けられている。

ドライバーズシートに収まると、眼前にはデジタルステージと呼ばれる11.9インチのOLEDディスプレイと14.5インチのMMI(マルチメディア・インターフェイス)パノラマディスプレイで構成する曲面画面が広がり、さらに助手席側にもドライバーから見えない仕組みのアクティブプライバシーモードを備えたディスプレイがある。つまり、これまでとは違う全く新世代のモデルであることがひと目で分かるのだ。ボンネット下のトランクは64L、ラゲッジスペースは526Lと充分な収納スペースを確保している。

Q6 e-tronクワトロのボディサイズは4771×1939×1648mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2899mm

スライドスイッチ式のシフターでドライブに入れ、さっそく高速道路へ。制限速度は120km/hで日本と同じとはいえ、直線部分がほとんどなく、絶えず右へ左へとコーナリングを繰り返しながらアップダウンも組み合わされるという設計で、そこを走っているクルマたちはどれも結構なハイペース。しかしQ6 e-tronが持っている静粛性や乗り心地、みっちりとしたパワー感によって安心してアクセルを踏み込むことができ、その速度感覚のなさはちょっとヤバいほど。後で日本まで請求書が送られてくるスピードカメラが至るところに設置されているそうで、メーターの数字を絶えず見ておく必要がある。

高速道路を降りると、道幅6mほどの対面通行の山道が延々と続くルートに入る。ガードレールやのり面に囲まれた狭い車線は、走行ラインが本当に1本しかないようなタイトなものばかりだったのだが、幅2m近いQ6 e-tronのボディ全体を司るステアリングや足まわりのコントロール能力が抜群で、各コーナーを正確にクリアしていく様は見事なものだった。

その感覚は、翌日試乗したSQ6 e-tronでさらに顕著に味わうことに。デイトナグレイのボディに、レッドステッチの入ったコンビネーションブラックのレザーシートを組み合わせることよってワイルドさが増した高性能版は、ドライビングモードをダイナミックに入れると車高がグイグイ下がり、迫力と存在感が一層上がる。

走り出すと、舵角が少なく剛性感と正確性が印象的なステアリングと、乗り心地と俊敏性を両立したエアサスの足まわり、リア駆動に比重を増した前後のトルク配分、ワンペダルモードでのブレーキングの制御の良さなどがドライバーにビンビンと伝わってくるのだ。それはまるで、同社のスポーツBEVであるe-tronのGTやRSモデルを操っているような満足感があるし、同時に開発したポルシェのBEV「マカン」もかくや、という印象。

しかもこれら全てにおいて、E3 1.2の5台のコンピュータがそれぞれの担当分野でハイパワーで制御しているというから、それには圧倒された。例えれば、今まで使っていた古いコンピュータを買い換えて最新のハイパワーモデルにした時のような感覚だ。

SQ6 e-tron

サードパーティ製ゲームも用意

アウディお得意のライティングシステムも、E3 1.2によって大きく進化。5台のうち1台のコンピュータで制御するアクティブデジタルライトシグニチャーは、MMIディプレイで前後合計8種類のパターンにカスタマイズが可能で、やってみるとこれが結構おもしろい。フロントのデイタイムランニングライトは70個のLEDユニット、リアは10mm/秒で生成できる360セグメントの有機LEDパネルで構成されているといい、ライトによって車外へ情報を伝える将来のCar to Xをも見据えているという。今回のQ6は、停車時に三角停止板のようなデザインで光るパターンが用意されていた。

8種類のライトパラターンが選択できるアクティブデジタルライトシグニチャーの様子

また、充電時間を楽しく過ごすためのサードパーティ製ゲームも用意されていて、筆者はAR(拡張現実)ヘッドアップディプレイに表示されるスペースシップゲームをやってみた。パドルシフトを使って行なう方法も新しく、時間はあっという間に過ぎていく。

サードパーティ製ゲームも用意

BEV化の波が少しおさまりつつある現状ではあるけれども、将来を見据えたアウディが、そのスローガンである「Vorsprung durch Technik(技術による先進)」をしっかりと体現し続けているのを確信できた今回の試乗会だった。

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