TBSの部署横断チーム、SXSW出展の狙いと手応え / Screens

TBSが2024年3月8〜16日にアメリカ・テキサス州オースティンで開催された音楽・映画・インタラクティブの複合フェス「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)2024」へ出展。

参加スタッフはテクノロジー・デザインを中心に、ブランディング、配信、都市開発、スポーツといった横断的な組織を構成することで、各部署に最先端のテクノロジーを取り入れることを目的としている。同チームで開発したさまざまなプロダクトの体験ブースを展開した。

SXSWへの出展は、昨年に続いて2度目。放送局が運営する部署横断型のR&D集団として業界内外で注目が集まる中、世界的なインタラクティブの祭典に向けて、どのような狙いで臨んだのか。そして気になる手応えは──。出展の中心メンバーにリアルなお話を伺った。

■SXSW概要

SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)は、アメリカ・テキサス州オースティンで毎年3月に開催される世界最大級のビジネス・カンファレンス & フェスティバルイベント。

【プロフィール】

趙学来氏
広告会社のマーケティング担当を経て、2023年にTBSテレビへキャリア入社。現在は総合プロモーション部に所属し、配信再生数最大化に向けたプロモーションやマーケティングを担当。

大西陽一氏
2022年TBSテレビ入社。ICT局システム開発部に配属後、23年にTBSグロウディアへ出向。社内業務システム開発や研究開発のプロジェクトマネージャーを務める。文字原稿からアナウンス音声を生成する「音六AI」、文字起こしシステム「もじこ」などを担当。

永山知実氏
通信会社の法人営業を経て、2023年TBSテレビにキャリア入社。現在はメディアテクノロジー局 未来技術設計部およびTBSグループ横断のR&D集団「TBS Tech Design Lab」に所属。テクニカルエバンジェリストとして宣伝・広報、技術営業を行う。映像・音声・制御信号伝送ソフトウェア「Live Multi Studio」の事業化を担当。

中本聖也氏
通信会社での事業開発を経て、2023年TBSテレビにキャリア入社。現在はメディアテクノロジー局 未来技術設計及びTBS Tech Design Labに所属し、テクニカルエバンジェリストとしてTBSのイノベーションスペース「Tech Design X」でのR&D、先端技術とコンテンツを組み合わせた開発に取り組む。Apple Vision Proを用いた「SASUKE」のバーチャル体験アプリ、生成AIを活用した誤字チェッカー「TBS LUPE」などのプロダクト開発を担当。

峯松健太氏
2010年TBSテレビ入社。東京タワーからスカイツリーへの親局移転担当を経て、2015年から情報システム局にて社内の働き方改革を推進。グループウェア「TBS Cloud」の導入や、社内システムのクラウド化を進めている。

■2度目のSXSW、プロダクトとしての販売を意識した出展で大きな成果に

──昨年に続き2度目の出展となるSXSWですが、今回の狙いは?

峯松氏:初出展となった昨年は「とにかく何でもいいから出してみて、来場者の方々に楽しんでいただこう」という思いが強かったのですが、1年を経て多くのプロダクトがサービスとして提供できる水準に達したことから、今年は「本気で売るつもりで出展しよう」という狙いで臨みました。

趙氏:SXSWが開催されるオースティンは日本でいうと渋谷くらいの規模の街なのですが、会期中はメインの会場のみならず街全体がフェスの舞台となり、さまざまなコンテンツが展開されることから「TBS GROUP VISION 2030」で掲げる「赤坂エンタテインメント・シティ計画」のヒントにつながる発見を得たいという狙いもありました。

──今回はどのような展示が行われたのでしょうか。会場での反響はいかがでしたか?

中本氏:2028年ロサンゼルス五輪の競技種目にも採用された「SASUKE」をよりリアルに楽しめる仕組みとして、「SASUKE」のバーチャル体験ブースを展示しました。このブースでは、VRとAR技術に活用し、さらにApple社から新たに販売されたヘッドマウントディスプレイ「Apple Vision Pro」を用いた展示を行いました。これにより、来場者は「SASUKE」の競技をまるで実際に体験しているかのような臨場感を味わうことができます。

「Apple Vision Pro」を装着すると目の前に実寸大のフィールドが表示され、その中をプレーヤーとして実際に動き回りながら、セットのサイズや競技の難しさを体感できる仕組みになっています。

また会場では、ミスターSASUKEこと山田勝己さんと一緒に記念写真を撮れるARブースなど、これまで番組の中でしか体験できなかったコンテンツに没入できる仕組みが受け、当日は長蛇の列ができる大人気アトラクションとなりました。

永山氏:TBSとWOWOWが共同開発した超低遅延伝送サービス「Live Multi Studio」を出展しました。このサービスでは、独自開発したプロトコルを介して映像、音声、機器の制御信号をインターネット回線で遅延なく伝送できます。遠隔地の機材を離れた拠点から操作して、遅延や画質面が業務レベルで十分に担保されている点が大きな特長です。

今回は、ブースに設置したコントローラーを介して、赤坂にあるTBSのイノベーションスペース「Tech Design X(テックデザインクロス)」内に設置した照明や大型LED映像をVJ感覚で動かせるデモンストレーションを展開し、映像配信に携わる方々から「このシステムはすぐに使えるのか?」「既存のシステムにどのように組み込めるか」など、ビジネス視点で積極的な相談をいただきました。

峯松氏:インカムアプリ「T-Qom(ティーコム)」を出展しました。これまでのように専用機材を用意することなく、各自の端末にアプリをインストールするだけで利用でき、ネット回線さえあれば海外との通信も可能です。こちらも「Live Multi Studio」同様、社内ツールとして作られたものがベースとなっており、音声のほかにタリー信号送出など、実際の現場ニーズに即した仕様である点が特長となっています。

今回はパソコンとiPhoneを端末として用意し、それぞれを介してやりとりするデモンストレーションを行いました。SXSWは音楽フェスとしての要素も強いですが、それもあってか、実際にライブ制作の現場に携わる方々から「現場でそのまま使えそう」「アプリなので端末として配りやすい」と好感触を多くいただきました。

大西氏:テキスト原稿からナレーション音声を生成するシステム「音六(おとろく)AI」を出展しました。ナレーター確保の人的コストや収録時間を削減でき、様々な言語のナレーションを作れることによってコンテンツの多言語化も支援します。今回は社内で開発したアナウンサーのキャラクター「AoI(あおい)かなえ」でデモンストレーションを行いました。

海外における動画制作や音声コンテンツの市場が広がっていることを踏まえ、情報提供やニーズの把握を目的とした出展でしたが、来場者の方々からは非常に多くの反響をいただき、「実際に販売していきたい」というお話をさせていただきました。

■「現場発のプロダクトには説得力がある」SXSW出展で感じた海外ニーズの高さ

──今回を振り返って、手応えはいかがでしたか? 出展を通じて得られた発見などもあれば、お聞かせください。

大西氏:SXSWは一般のお客様の来場も多く、小中学生くらいのお子さんや学校の先生方が集団でお越しになって遊んでいただくという場面も多くありました。「新しいものと出会う場所」という性質が強く、感度の高いアーリーアダプターの方々へ訴求する場としても、非常に良かったと思います。

中本氏:「SASUKE」のバーチャル体験については、アトラクションをクリアしていくというわかりやすさが受け入れられ、楽しんで体験してくださる方々が多いと感じました。放送以外の分野においてもTBSのファンを広げていくという命題のなかで、世界のファンを増やすということの重要さをあらためて認識しました。

峯松氏:来場者の方々とコミュニケーションを取る中で、「アメリカでも“現場の悩み”は結構共通しているのだな」と気づきました。今回出展したインカムアプリ「T-Qom」は我々の制作現場における必要から生まれたプロダクトですが、アメリカをはじめ各国の現場でも十分にニーズがあるのではないかと手応えを感じました。

永山氏:今回の「Live Multi Studio」デモンストレーションは、一般のインターネット回線上、かつ海外との通信でも0.2〜0.3秒程度の低遅延を実証する結果となりました。海外企業の方々からも非常に多くのお声がけをいただき、グローバルなサービスとしてのポテンシャルやニーズを十分に持ったプロダクトであるということを確認できた形です。

同時に、海外市場へしっかり売り込んでいくとなると、やはり現地における代理店や、アシストをしてくださるパートナーの存在が不可欠であるとも感じました。今回のSXSW出展は、サービスとしての手応えを感じると同時に、海外展開に向けた次の一手を考える機会となりました。

大西氏:事業会社特有のニーズがまず先にあり、「これを解決するためにこういうものを作りました」と明確に説明できる出展であったことが強い説得力を持ち、全体的に高い評価に繋がったのではないかと思います。「音六AI」は動画制作シーンでの利用を想定して開発しましたが、来場者の方からは「ポッドキャストなど音声メディアでも使えるよね」といった感想をいただき、これまで想定していなかった分野でのニーズも実感しました。

また、印象的だったのは、来場者の方々から「日本のコンテンツが見たい」というお声をかけていただく一方、「日本向けに自社のコンテンツを見てもらいたい」という相談も多くいただいたことです。こうした相互のやりとりがこの機会に盛んになると良いなと感じましたし、そのためにもいま以上にスピード感と規模感が求められるなと思いました。

趙氏:今回のSXSW出展では、リアルのイベントを介してユーザーの五感に訴えかけるという最先端のマーケティングに触れることができました。これからはコンテンツに限らず、プレースメントなどTBSが持つ様々なアセットを活用し、リアルチャネルを軸としたマーケティングの推進に力を入れていけたらと思います。

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