【7月2日付編集日記】阿修羅

 古代、巨石を運ぶのに木製のそり「修羅」が使われた。長さ約12メートル。約50トンの石を運べたそうだ。これを前に進めるには、千人を超える人たちが力を一つにする必要がある(奥田尚「石の考古学」吉川弘文館)

 ▼修羅が出土した大阪府藤井寺市によると、この木ぞりの語源は2人の神の故事に由来する。巨石のように何事にも動じない帝釈天(たいしゃくてん)を壮絶な戦いぶりで動揺させた阿修羅(あしゅら)にちなみ、そう呼ばれるようになったという

 ▼能登半島地震から半年がたった。仮設住宅への入居を待って避難所生活を送る高齢者、倒壊した家屋のそばを通学する子どもたち、大規模火災で焼け焦げた建物の多くが残る輪島朝市―。現地取材した本紙記者の記事や写真が復旧の遅れを伝えた

 ▼地震の前から能登は高齢化や人口減少が深刻だった。それが今、人手不足などの課題となって重くのしかかる。しかし、復興ビジョンを描き始めた和倉温泉の若手経営者ら、能登牛や揚げ浜式製塩、伝統の祭りなどを守ろうとする人がいる

 ▼阿修羅の語源の解釈の一つに「生命(アス)を与える(ラ)」がある。ふるさと再生への命を芽吹かせようと、何とか踏ん張り、歩を進める能登の人々を後押ししたい。力一つに。

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