【7月1日付編集日記】幸福感

 ありふれた物の中に宿る美しさが不意に青年の心に幸福感をもたらした。梶井基次郎の代表作「檸檬(れもん)」は、憂鬱(ゆううつ)な気持ちで街をさまよいながら果物店でレモンを購入した主人公の心の動きを描く

 ▼絵の具をチューブから搾り出して固めたような単純な色、丈の詰まった紡錘形―。主人公は、以前からその美しさに引かれていたレモンを手にし「総(すべ)ての善いもの総ての美しいものを重量に換算してきた重さ」などと空想を巡らせ、次第に元気を取り戻していく

 ▼いわき市立美術館で企画展「フィンランドのライフスタイル」が開かれている。家具やガラスなど、デザイン大国として知られる同国のライフスタイルを伝える品々が並んでいる

 ▼建築家アルヴァ・アアルトが制作した椅子「スツール60」はフィンランドデザインを代表する名作。世界中で数百万脚が販売されている。L字に曲げられた3本脚が座面を支えるシンプルな構造は機能性とかわいらしさを両立させ、見ていて飽きない

 ▼フィンランドは国連関連団体が発表する「世界幸福度報告書」で長く首位を保っている。何げない日常の品物がいかに生活を楽しくさせてくれるか、幸せの国の作品に囲まれて追体験してみるのもいい。 

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