掲示板ジャック

 KY。ちょっと懐かしく感じる2文字。ローマ字書きの「空気が読めない」の頭文字で、2007年に流行した。場の雰囲気を察した言動ができないことを指し、良くも悪くも日本人の価値観を表している。
 略語自体は死語となったが、暗黙のルールを守る言動は今も社会のあちこちで重きを置かれている。そんな中、あえて空気を読まず、暗黙のルールを破った政治団体がある。7日に投開票される東京都知事選で、ポスター掲示板約1万4千カ所を”商品化”した。
 同団体に寄付した人は掲示場所から1カ所選んで、自由に作ったポスターを掲載できる。寄付額は現在、1口2万5千円以上。同団体が擁立した24人分の枠を対象としている。都の有権者数は本県の13倍以上に当たる約1100万人で、抜群の宣伝効果が目をつけられた。
 その結果、候補者と全く関係ない女性や犬、猫などが24枠分に並ぶ異様な光景が広がる。枠の販売や第三者への提供を禁じる規定はなく、法律の穴を突いた。「費用対効果は抜群」。費用がかさむ掲示板をなくせば、供託金が下がって政治参加がしやすくなる「問題提起」というのが団体の主張だ。
 KY。今は、労働災害を防ぐ「危険予知」の頭文字の方が主流らしい。今回の掲示板ジャックは選挙という制度の信頼を損ね、民主主義の根っこが揺らいでいる危険を知らせたか。選挙はき(K)っと良(Y)くなるという思いで1票を投じるものだろうに。

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