鈴木保奈美「コメディーは恐怖との闘い」 50代で開拓した舞台俳優の道、掴んだ主役で新境地

舞台、ドラマ、番組MCと活躍が続く鈴木保奈美【写真:舛元清香】

語った「情熱の源」

俳優・鈴木保奈美(57)は昨今、舞台作の出演を重ねている。来月には主演舞台『逃奔政走(とうほんせいそう)‐嘘つきは政治家のはじまり?‐』(東京公演7月5~16日、京都公演7月20~21日)では、女性知事がスキャンダルに翻ろうされていく政治コメディーに挑む。かつてトレンディードラマで一世を風びした彼女が、舞台に向かう「情熱の源」を語った。(取材・文=大宮高史)

『逃奔政走』は、劇団・アガリスクエンターテイメントを主宰する冨坂友氏が脚本・演出を担うコメディー作。鈴木が演じる知的で誠実、清新なイメージを掲げて当選したはずの女性知事・小川すみれが、スキャンダルに右往左往する。そんな物語を同劇団の俳優陣と鈴木ら外部の俳優が共演し、スピーディーで密度の濃いものにしようとしている。

鈴木は、個人でも熱心に小劇場に足を運び、演劇を研究する集まり「部活」に参加し、稽古を重ねてきた。アガリスクエンターテイメントの作風にも大いに刺激を受け、「部活」でも冨坂氏の二人芝居戯曲『笑の太字』を演じたことがある。

「客席からアガリスクさんの舞台は見ていましたが、そこに私たちが異分子として加わることでどんな舞台になるか、想像がつかないので演じる側ながら楽しみにしております。佐藤B作さん、相島一之さん、寺西拓人さん、それに私もアガリスクさんの疾走感あるお芝居をかき回していきます。全く違う経験やカルチャーを持った者同士のぶつかりあいも、大きなみどころになると思います」

本格的なコメディー舞台は初めての出演になるが、自身の俳優としてのイメージを問うと、「『コメディーっぽくない』と言われることもあって、ちょっと意外でしたね。笑いとかい離した俳優を目指してきたわけでもなくて」と微笑んだ。だが、笑いに対する興味は常に持っている。

「コメディーと銘打った作品でなくても、台本を読みながら『クスリと笑える瞬間にできないかな』と工夫できるところを探してしまいます。例え60分間のシリアスなドラマであっても、終始、真顔でいるのではなくて、フッと脱力できる瞬間を作ってみようとトライしています。どんな俳優さんもこういった試行錯誤を考えていると思いますが、私にとっては特に好きな習慣です」

他方で、ファンだったアガリスクエンターテイメントの舞台に出演できることへの緊張感も明かした。

「私は面白い作品に出会うと、すぐに『やってみたい』と思う性格です。今回、アガリスクさんとの共演がかなったことは素直にうれしい気持ちもありつつ、見るのとやるのは大違いです。『本当に務まるのか』という恐れは、ドラマでも映画でも毎回感じていますが、負けず嫌いで乗り切っています」

『東京ラブストーリー』から30年以上を経ても、凛として時代の先端をゆく【写真:舛元清香】

知事役の参考に東京都議会を見学、衰えない好奇心

インタビュー中、どんな質問にも歯切れよく論理的に答えていく。だが、「コメディーの良さは何か』と聞くと、しばし考えた後でこう答えた。

「見ている分には感覚で楽しめますが、演じるとなるといつも『私の笑いのセンスはこれで良いのか』を自問しながらやっています。会話で笑いを取るためのテンポ感って、もしかすると、練習よりも才能がモノを言うのかもしれません。そう考えると、コメディーは楽しいばかりではなく、怖い部分もあって恐怖との闘いです」

近年は舞台『レイディマクベス』『セールスマンの死』などに出演し、生の舞台の面白さも強く感じている。

「現在進行形でお芝居が進んでいき、かつ舞台と客席が同じ時間軸にいる。しかも、同じ観客、同じ進行のお芝居は2度と体験できません。その1公演1公演が奇跡のような時間だと大切にかみしめています」

映像と舞台、演じる媒体での違いについて「映像では1度きりの儚さ、舞台では何度もこねくり回せる楽しみを堪能しながらの現場です」と言った。

「舞台は稽古期間でも本番でも毎回、『ああでもない、こうでもない』といじくり回してクオリティーを追究していく過程を楽しんでいます。何度もトライできるんですね。映像はリテイクを重ねつつも最終的にはひとつの映像として公開されます。『違う展開もあったかもしれない』と想像の余地があるところが面白いと思っています。どちらがいい悪いではなくて、『面白そうだからこうやってみよう』という遊び心さえあれば、何倍もこのお仕事が楽しくなります」

50代に入り、開拓してきた舞台俳優の道。4年前には日本テレビ系『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』に出演して全問正解。賞金300万円を獲得すると、それを『部活』の活動資金にあてた。『逃奔政走』で知事の役を演じることが決まると、東京都議会の様子を見学して政界の空気感を吸収。読書家でもあり、昨秋からは、BSテレ東『あの本、読みました?』のMCとしてジャンルを問わず、気になる本から知見を新たにしている。それでも、この先への「不安」と『逃奔政走』での期待も口にした。

「私たちはお仕事をいただく立場なので『仕事がなくなるかも』という恐怖感は常にあります。今回、演じてみて頭も体も普段の1.5倍くらいはエネルギーを使っていますが、その分、そう快感もあります。とにかく面白い2時間をご用意してお待ちしておりますので、笑う準備をして 遊びに来てください」

好奇心と行動力は衰えない。何歳になっても見逃せないエンタメを供給する。鈴木はそんなトレンディーな俳優でい続ける。

□鈴木保奈美(すずき・ほなみ) 1966年8月14日、東京都生まれ。86年にデビュー後、多くのCMやテレビドラマに出演。91年に出演したフジテレビ系連続ドラマ『東京ラブストーリー』で脚光を浴びる。以降、数々のトレンディードラマに出演。主な出演作にNHK大河ドラマ『江 ~姫たちの戦国~』、フジテレビ系『SUITS/スーツ』、Netflix『浅草キッド』、舞台『セールスマンの死』、舞台『レイディ・マクベス』など。現在、読書エンターテイメント番組にBSテレ東『あの本、読みました?』にレギュラー出演中。

ヘアメイク/福沢京子
スタイリスト/犬走比佐乃大宮高史

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