『虎に翼』岡田将生「なるほど」の巧みな使い分け 平田満による圧巻の“序文朗読”も

『虎に翼』(NHK総合)第66話にて、最高裁長官・星朋彦(平田満)の息子で、横浜地裁の判事である航一(岡田将生)が新たに登場。温和な性格で好青年のようにも思えるが、「あの佐田寅子さん」と含みをもたせる発言をしたり、寅子(伊藤沙莉)の発言に対して「なるほど」と返したり、曲者とまではいかないものの、扱いづらい人物であることは確かだ。

早くも先行き不安な改稿作業となったが、第67話では、次第に心を通わせていく2人の関係性が描かれた。

家庭裁判所主催による「愛のコンサート」の影響や家裁の仕事で大忙しの寅子。それに加えて星長官の著書『日常生活と民法』の改稿作業となると、当然休む暇なんてない。快く引き受けたとはいえ、仕事一筋の寅子には様々な声が寄せられている。

寅子たちが任されているのは戦後に法改正された部分の調整。星長官は顔を出さず、寅子と航一の2人で作業をすることになったが、相変わらず寅子はやりにくそうだ。そんな時、寅子が書いた文章を読んでいた航一が「なるほど」と一言。不安げな表情を浮かべる寅子だったが、航一は「民法は現実の家庭生活を目標にして、その中で人々が互いに尊重し合いながら協力していくような民主的な家庭を作り出そうとしているのであります」という寅子が書いた一文を読み上げ、「いいですね、ここ」と言った。

寅子と航一が作業をしていると、星長官が2人のもとへやってきた。開口一番に「私なんて偉そうに言うだけの口だけジジイだよ」と謙遜したり、裁判官よりもお金を稼げる弁護士を選んだことについて「信念よりも金をとった」と告白したり、はたまた航一の結婚相手について相談を寅子に持ちかける姿は星長官の人柄が現れていた。これまでなんとも言えない緊張感が張り詰めていた2人だが、星長官のおかげで距離が縮まり始めていた。

毎晩のように改稿作業をする寅子だが、寅子にとっては仕事抜きで法律と向き合うことができる時間が何よりも生きがいとなっていた。ただ、気になるのは原稿と向き合う寅子を見つめる優未(竹澤咲子)の寂しそうな表情だ。今の寅子は仕事に打ち込むあまり、家庭のことが疎かになっている。仕事と家庭のどちらかを優先したほうがいいという話ではなく、もう少し優未と向き合う時間を作ってほしいと思ってしまう。優未は決して言葉には出さないが、きっと母親である寅子との時間がほしいはずだ。

家事部と少年部の親睦を深めようと昼食会を企画した寅子だったが、蓋を開けてみると誰も集まらなかった。寅子の妄想の中では小橋(名村辰)が現れ、「目立つ女は嫌いだ」「いい加減、現実見ろ」といった言葉を投げかけてくる。寅子は「現実って何ですか。理想は掲げ続けなきゃただのゴミくずですよ」と一段と荒ぶっていた。それにしても小橋の扱いが雑すぎてかわいそうになってくる。どこかで彼の内面を掘り下げてほしいが……。

甘味処・竹もとでは寅子と航一は星長官の原稿を待っていた。航一が『日常生活と民法』の表紙を取り出して見せると、そこには「佐田寅子補修」という文字が。驚く寅子に航一は「お手伝いの度はとうに超えていますよ」と話す。法律の本を出すことが夢だった優三(仲野太賀)のことを思い出し、寅子は「代わりに夢を叶えたってことにしちゃおうかしら」と笑顔を見せる。航一はいつものように「なるほど」と返事をするが、その温度感はいつもとは違っていた。「そんなふうに喜んでもらえるならば、父さんも出がらし冥利に尽きます」と星長官が穂高(小林薫)に最高裁判事を依頼した日のことを明かし、「この本は、父なりの出がらしの役目なのかと」と明かした。

そこに序文を完成させた星長官が竹もとを訪れると、自ら書いた序文をその場で読み上げる。読み終わると、寅子や航一だけではなく、その場に居合わせた竹もとの客も拍手を送った。平田満の朗読はまるでその場にいるようななんとも言えない胸の高鳴りを覚えた。しかし、本の出版を前に星長官は亡くなってしまった。優三の夢を叶えた寅子は未来へとまた歩み始める。
(文=川崎龍也)

© 株式会社blueprint